接触-4
男の言葉は到底理解には至らず、投げ掛けられるにこやかな表情すら俄に信じられない。
そして夢でも観ていたかと錯覚してしまうほど、自分の身体は軽い。
見た目にも掠り傷どころか汚れの一つも残っていない身体。それが逆に不自然過ぎた。
「無闇に触るなって言われているから、安心して?さあ、どうぞ」
いつの間にかポットの置かれた小さなテーブル。そこ立つ男が引いた木製の椅子へシウを促す。
「・・・・触れるなって?」
「そうだよ。君は大事な研究資料なんだろう?下手に触れてヒトの手に慣れたら困るんだろう。前にも彼はそれで失敗してるしね」
「失敗・・?」
「君の前にいたペットだよ。可哀想に、あれじゃあ奴隷にもなれない」
くすくすと言葉に反して喉を鳴らし、唇に手を添える男の仕草はシウから体温を奪っていくようだった。
「ヒトの手に慣れたら・・失敗するのか?」
「いや?そういう事ではないよ。順応は本能だからね。大事なのは狂喜に取り込まれない心だよ」
「なんでそんなこと・・あたしに、教えるんだ?」
「少しは信用してもらえたかな」
愛でるような眼差し。それでいて射るような冷たい鋭さ。
それを全身に感じながら、シウは負けじと視線を跳ね返す。
「アズールはどこ?」
「随分なついてるんだね。彼、優しいもんね?」
「・・・そんなんじゃない」
苦し気に絞られた少女の瞳に男はまたくすりと喉を鳴らした。