『SWING UP!!』第9話-12
「ん……ぅ……くっ……あっ…」
サドルの曲線にあわせて、股間を擦りつけながら腰を前後に蠢かす。これは、オーソドックスなパターンの動作であり、気持ちを盛り上げるときの前奏のようなものである。
「くぅっ……んっ、んっ……んんっ……」
足をペダルから浮かせ、自分の体重の全てを、サドルと密着している股間に集めて、その状態で腰を回転させる動きもある。螺旋的な摩擦が発生するそれは、もっと強い刺激を生み出すために織り交ぜるパターンである。
「あっ……んくぅっ!」
股間で一番、刺激を感じる部分…いわゆる“クリ×リス”の周辺を、サドルの先端に、集中的に小刻みに擦り付ける。それは、絶頂まで自分を導くときの、いわば“仕上げ”ともいえる腰の動きであった。
くにっ、くにっ、くにっ、くにっ…
「んくぅっ、んっ、んんぅ、んんっ!」
サドルの先端を、股間に押し付け擦る。びりびりとした強い刺激の愉悦が内股から全身に伝播し、結花は益々、腰を動かすことに夢中になった。
(もう……とめられない……イケナイって……わかってるのにっ……!)
片隅に残る理性がそう叫ぶ。
ぐにゅぅ、ぐにゅぅ、くにっ、くにぅ、ぐにゅぅぅぅ……
「あふぅっ、んんっ、くぅっ、あんぅぅぅぅ………っ!」
しかし、腰の動きは止まらない。
三つのパターンをかわるがわる繰り返し、エアロバイクのサドルを使った“角オナニー”によって、結花は自分を高ぶらせていった。
『片瀬と、野球がしたかったんだ』
「!」
不意に、耳の奥に蘇った声。朴訥とした表情で、抑揚もなく発せられたそれは、しかし、確かな熱気を伴って、結花の心に沁みこんでいた。
(わ、わたしも……一緒に……!)
ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅっ!
「んっ、あうっ、ああっ、くうぅうああぅぅぅっ!」
航の声と表情が浮かんだ瞬間、腰の動きが激しくなった。
(アソコ……アソコが……)
擦り付けている部分は、滲み出ているヌルヌルがはっきりわかるほど、熱く湿って潤っている。
(あ、あっ……そ、そろそろ、か、も……)
ぼやっとした感覚が股間から立ち昇り、体を包みこんで、頭の中を真っ白にしていく。自分の意思を反映しなくなった身体がブルブルと震え、細くしなやかな太股がガクガクと痙攣した。
「あっ、くるっ……白いの、くるっ……きちゃう、きちゃう……あ、ああっ、き、きちゃうぅうぅぅぅ………っっっ!!」
サドルの先端に強く股間を押し付けて、それを捻るように擦りあげた瞬間、脊髄を電流が駆け巡り、背中がぴんっと反りあがった。
「くあぅっ、んっ、んううぅぅぅぅぅっ!!」
込み上げてきたものが、一気に弾けた。絶頂に達したのだ。
「あ……あぁ……あ、あ……あぁ……」
身体が小刻みに震え、頭の中が真っ白な靄に包まれる。時々思い出したように腰が大きく前後に跳ねて、絶頂の余韻が結花の中で、ねずみ花火のように四方八方、飛び廻って荒れ狂った。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
繰り糸が切れたような動きで、結花は前のめりになり、エアロバイクのハンドルに身をもたれかける。
「ハァ……ハァ……わ、たし……」
甘い匂いのする汗を全身に滴らせながら、深く息をついていた。
「なんか、ぐちゃぐちゃ……」
ショーツは間違いなく、沁みこんだヌルヌルで汚してしまっている。汗を吸い込んで、肌に張り付いてくるシャツの感触も、正直今は、気持ちが良くない。
「頭んなかも……すごい、ぐちゃぐちゃだぁ……」
色々なことがありすぎて、整理がつかない。18年の人生の中でも、心身ともに激動の一日だったと自信を持っていえるだろう。
(もぉぉぉ……木戸……木戸航めぇぇぇ………わたしを、こんなに……こんなに、ぐちゃぐちゃに、しやがってぇぇぇ……!)
そして何故か、言うところの“ぐちゃぐちゃ”の原因を、航に見ている結花であった。