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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-13


 翌日、である。
 科目単位の選択方法や、施設利用および生活全般における注意点など、細々としたガイダンスを受け、それが終了するや、結花と航は、軟式野球部の部室であるプレハブ小屋へと向かった。
(コイツ、昨日のこと、どう思ってるんだろ…)
 朝、全体ガイダンスのために集められた講義場で、“おはよう、片瀬”と、先に席に座っていた自分に話しかけてきた航の様子は、昨日の入学式の時に、正門付近で初めて出くわした時と全く同じであった。
 朴訥として静かな表情で、とても落ち着いた様子……要するに、いつもと変わらない。
(……ま、いっか。いや、よくはないんだけど……まあ、いい、ことにする)
 航があんまりにも変わらない様子だったから、結花もひとまず色々なことは自分の中で棚上げしておいて、軟式野球部の正式な初日について集中することにした。
「お」
「? なに、どしたの?」
 半歩前を行く航が怪訝な声を挙げたので、結花はやや下向きだった視線を挙げた。
「部室の前に、誰かいる」
 航の声に導かれるように、結花は、その視線をプレハブ小屋の方へ向ける。
「ほんとだ」
 ひとり、誰かを待っているような様子で部室の前に立つ人物を、結花も視界に捉えることができた。そして、その人物は、何かを探しているように、周囲を見渡すような仕草をしていて、よく見ると、それが女の人である事もわかった。
「!」
 自分たちのことを認識したのだろう。見渡す動きが止まるや、結花と航に向けて大きく手を振り始めた。どうやらその女の人が探していたのは、自分たちだったようだ。
 部室の前にいたその女性は、早足に駆け寄ってきた。遠目では良く分からなかったが、とても背の高い大柄なひとだった。
「こんにちは!」
 明るく、元気な声である。陽気に満ちたその雰囲気は、今の季節にぴったりだと、二人ともに同じ印象を抱いていた。
「キミたちが昨日、部室に来てくれた二人だよね。せっかく来てくれたのに、お出迎えができなくて、ほんとにごめんね」
 本当に、眩いばかりの笑顔である。背の高さもあるせいか、何か、圧倒的なパワーを感じて、結花と航は、何も言えずに惹きこまれている。
「あたしは、蓬莱桜子。史学科の二回生で、チームのキャッチャーをしているの。ふたりとも、よろしくね!」
 桜子、という名前にぴったりの人だと、やはり同じ印象を抱く二人であった。
「あ…と…」
 そこで、黙ったままだということに気がつく。
 部室の前で待っていて、自分たちに気がついて目の前に来てくれたということは、おそらく“昨日はできなかった出迎え”を、してくれているのだとわかる。
 挨拶をしなければ、無礼極まりない。
「はじめまして……では、ないと思いますが、改めて、はじめまして、蓬莱先輩。自分は学芸科の1回生で、木戸航です。よろしく、お願いします」
 まず先に、沈黙から回復した航がそう言った。
「ふふっ、覚えてるよ〜。去年の練習試合で、すごくいい動きしてたもん。そんなキミが仲間になってくれるなんて、本当に心強いよ!」
 本当に嬉しそうに桜子が言ってくれたので、航は珍しくも、その純朴な顔を大いに紅潮させていた。
「亮さんも水臭いんだから! 弟のキミが、うちに入学するって知ってるはずなのに、全然教えてくれないんだもん!」
 航の次兄・亮は、桜子の実家である“蓬莱亭”の常連客だ。そして、長兄である務も、実はこれからその“蓬莱亭”に深く関わることになるので、自分の入学と入部を心の底から喜び、歓迎してくれている蓬莱桜子には、航も自ずと縁を感じていた。
「あ、す、すみません」
 桜子に見蕩れて、出遅れた感のある結花も、ようやく我に返り、慌てたように桜子の前に身を乗り出した。
「わ、わたしは、片瀬結花です。史学科の1回生です。こ、こんにちは」
 思考が落ち着かないまま発したので、しどろもどろになってしまった。
「結花ちゃん、だね。よろしくね!」
 もちろん桜子は、それを気にする素振りもなく、喜色満面という言葉がまさに当てはまるその眩しい笑顔を、結花に振りまいていた。


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