出会い〜そして〜-10
僕はそんな気持ちにはなれない。それよりもさっきから心臓がドキドキと激しく鼓動を
打って苦しいんだけど。
「お主にはこういう粋な気持ちは理解出来ぬのかえ? 想い焦がれた子と一緒にこうして
裸の付き合いが出来るという素晴らしさは理解してもらえんのかの?」
いや、僕もあの時の狐に再び会えたのは嬉しかったけど、さすがに裸の付き合いという
のは……まぁ、コンさんが狐の姿のままだったら出来たかもしれないけどね。
「手を伸ばせば、触れられる距離にお主が居るのじゃな……」
「コン……さん?」
どうして、そんなにも悲しそうな顔をしているのですか?
「ふふん。なぁお前さん。触りたいのなら触れてもいいのじゃぞ? 胸とか……の」
先ほどの悲しそうな顔なんて無かったかのような笑顔で挑発をしてくるコンさん。悲し
そうに見えたのは、僕の思い違いなのかな?
「いえ、遠慮しますよ」
どうしてコンさんは、そこまで僕に胸を触らせようとしてくるのだろうか? 僕だって
一応男だから女性の胸を触りたいとは思うけど、だからといって容易く触るのはどうかと思う。
「まったく、ツマラン男じゃの……」
「ツマラナイ男でいいですよ」
「むぅ……本当にお主は真面目じゃの」
いやいや割りと普通だと思うんですけどね。長い時間をかけ想いを重ね合った恋人なら
分からなくもないけど、コンさんとは過去に一度繋がりがあっただけで、基本的にはまだ
会ったばかりの相手なのだ。
そんな人に対して誠実さを持たず厚意に甘えるのは僕は許せないかな。
「仕方ないの。こうなったら……」
コンさんが不敵な笑みを浮かべている。何か余計なことを考えているのだろうか。
「こうじゃ♪」
「ほわっ!?」
狭い浴槽の中だというのに、コンさんが僕に抱きついてきた。
「こ、ここ、コンさん!?」
「ふふふ……どうじゃ? 全身に私の身体を感じるじゃろ?」
「あ、あわわわわ……」
石鹸の香りとコンさん自身の甘い香り。そしてコンさんの胸の柔らかい感触。それらが
僕の理性を刺激してくる。
「ほぅ……今までで一番顔が赤くなってきておるぞ?」
「あぁぁ、あああ、あ……」
べ、べべ、別に赤くなってなんかいませんよ!
「はは、パニックになりすぎて、言葉が全然出てきておらぬぞ」
テンパっている僕を見て、痛快に笑うコンさん。コンさんの笑顔は可愛らしくて好きだ
けど、僕を弄って笑うのは勘弁して欲しい。
コンさんの弄りは僕の心臓が持ちそうにないんだよね。ずっとドキドキさせられっぱなしだよ。
「よいよい。お主はこうでなくてはな♪」
「うぅ……ぅっ」
更にコンさんの胸が僕の身体に押し付けられる。ぐにゅっと胸の形が変わる。すると当
たっていた胸の面積が更に増え、心臓のドキドキが加速する。
「お主を存分にからかったし、そろそろ風呂からあがるとしようかの」
コンさんによるお風呂から出る宣言。その宣言はまるで天の助けのような言葉で――
「ぶ――っ!?」
「な、なんじゃ!? どうかしたのか!?」
「あ、いえ……なんでもないです」
天の助けかと思ったそれは、コンさんの行動によって崩されてしまった。急に立ち上が
るものだから、コンさんのお股を至近距離で見ることになってしまった。
綺麗で艶やかなコンさんのお股。それをこんなにも近い距離で……
「おかしな奴じゃな……まぁ、とにかくあがるとするかの」
「は、はい……」
今日一番に近いほどのドキドキを抱えながらお風呂から上がる。出来るだけコンさんの
裸を見ないように思考を全然関係ない方向に押しやりながらお風呂から上がる。
お風呂からあがりドライヤーで長い髪を乾かしているコンさん。こういう姿を見るとコ
ンさんが狐だということを忘れてしまいそうになる。
耳と尻尾。それ以外は本当に人間と変わらない姿だから。耳と尻尾があるから、なんと
か狐であることを思わせてくれる。
長くほっそりとした髪と尻尾。それらがドライヤーで乾かすことによって、ふんわりと
厚みを帯びてくる。
「コンさんって普通にドライヤーとか使えるんですね」
「当たり前じゃ。神使に出来ぬことなぞ何一つないからの」
「そういうものなんですか?」
「そういうものじゃ」
神使ってそんなにも凄いものなのか。一応、神様の使いだからなのかな?
僕の疑問を余所に髪の毛と尻尾を乾かしていく。そして、お風呂に入る前と同じように
ふわりとした毛並みになったコンさんは――出会った時と同じように綺麗だった。
「そろそろいい時間じゃし、寝るとするかの」
「そう、ですね。そろそろ寝ましょうか」