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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第8話-5


(大和のストレートは、質が変わった。ってーか、とんでもなくなった)
 ある時をきっかけに、満は、大和の投げるストレートが“剛速球”という名称を当てはめたいほど劇的に変化したのを知った。
 “エキサイト・ピッチング”に使われている的は、硬質ゴムで出来ている。それが、パネル式の金具によって枠に取り付けられ、的に当たったときに後ろに向けて反転するようになっていた。
 そして、とある練習試合を終えた後だという大和の、最初のチャレンジの際にそれは起こった。

 バキィッ!

 と、金具ごとそのパネルを粉砕したのである。
『は!?』
 多少の経年劣化はあっただろう。ゴムも日を経れば、硬くなってもろくなる。だが、軟式ボールで硬質ゴムを破壊するとなると、どれだけの球威がそのボールに込められていたのか、想像もできない。
『す、すいませんっ』
 初球で備品を破壊してしまったことに大和は恐縮し、困った表情をしていたが、満は特にそれをとがめるでもなく、むしろ、質の変わった大和のストレートに並ならぬ興味と脅威を抱いた。
 その日の“エキサイト・ピッチング”の結果は芳しくなかった。いつもだったら9枚中7枚は確実に射抜いていた大和が、初球のそれを含めて、わずか3枚のぶち抜きで終えてしまったからだ。
 ただし、ぶち抜かれた的は、いずれもが初球と同じように破壊されていた。
 実のところ、あまり人気のなかったゲームなので、満が整備をサボってそこかしこにボロが出ていたのも事実ではある。ちなみに、大和が破壊した備品の分は、整備不良の責任ということで、満の手取りからさっぴかれた。
 だが、そんなことは瑣末に感じるほど、満は大和の球威に圧倒されていた。同時に、胸の奥から迫り出して来るような、興奮にも似た高鳴りを覚えていた。
 直球一本で、こんなにドキドキするのは、初めてだった。
(あれだ、あの、浪速トラッキーズのストッパー・藤山が投げてた“彗星ストレート”みたいな球筋だ)
 捕手のミットめがけて、まるで彗星のような軌跡を描いて投げ込まれる、鮮やかなストレート。つまり彼は、大和の“剛速球”に対して、プロが投げるそれと同じ印象を抱いていたのだ。
(……て、ことはだ)
 ある意図を持って、満は軟式ボールにマジックで赤い線を引き、それを大和に投げてもらった。バッターボックスのある位置に立ち、カメラを正面に構えながら…。
(やっぱりだ!)
 そしてカメラに収めた大和のストレートを、スローで再生したとき、そのボールの回転が渦を巻くような軌跡を描いていたことに気づいた。一般的なストレートであるところの、バックスピンではなかった。
『大和、お前さん、スパイラル・ストレートを投げてるぜ』
『スパイラル・ストレート?』
 それは耳慣れない言葉だった。直訳すれば、“渦”とか“螺旋”とか“うねり”とか、そういったところか。
『まあ“弾丸”とか“ジャイロ”とかとも、よく言われてるんだけどな』
 …前者の出展は講○社の、後者の出展は小○館の某野球漫画である。ちなみに後者は、「魔球の正体」と銘打って、手塚一志氏と姫野龍太郎氏の両名により、ベースボールマガジン社から刊行された書物にも精しい。
 大和のストレートの質が変わったとは即ち、ストレートの回転が変わったということである。
『なるほどなぁ、だからパネルが捻り飛んだわけか』
 “弾丸”とも呼び表されていたような、渦を巻いた回転の軌跡に打ち貫かれたため、劣化していた硬質ゴムのパネルが吹き飛んでしまったのだ。
 そして、大和のコントロールが乱れがちになったのは、リリースポイントが変化したことによるものだ。ボールにかかる回転が変わったということは、それを弾き出す起点であるところの、指先の感触も変わったということなのだから。
『とんでもねえ“必殺技”ができちまったわけだ』
 これで、コースを投げ分ける制球力が身につけば、鬼に金棒となる。
 だから満は、“エキサイト・ピッチング”での二回連続パーフェクトを免許皆伝の条件にしたのだ。


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