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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第8話-6

 リリースポイントを確実なものにするためには、やはり投球を重ねるしかない。しかし、大和には肘に故障歴があるから、闇雲になって球数を放ることはご法度だ。
 故障を生む最大の原因は、疲労によるピッチングフォームの乱れである。人間の身体は、意識無意識関係なく、現在の自分にとって一番楽な姿勢をとろうとする。その積み重ねが、結局は人の身体に歪みを生んで、重大な怪我へと繋がってしまう。
 満が、ビデオカメラを大和の四方八方にセットしているのも、教科書に載るべきお手本とも言われたそのピッチングフォームにズレがないか、逐次チェックするためなのだ。彼は何より、大和が再び故障することを、防ぐことに腐心している。
 その中で重ねられた、地道な“エキサイト・ピッチング”での投球練習だが、少しずつ弾き飛ばすパネルの数が増えていき、ここ最近になって、ようやくパーフェクトを記録することも出来るようになった。
 かすかな手応えを積み重ね、大和の中に自信が少しずつ埋め込まれていった。
 さて、本日のチャレンジ1回目である。
「!」
 8枚を射抜いたところまでは順調にいったのだが、右打者から見て内角高めにあたる、@のパネルだけがとうとう落とせなかった。あと1枚というところで、三球連続して失敗してしまい、非常に惜しいことをしてしまった。
「もう、失敗は出来ないぜ」
「わかっています」
 だが、大和には不思議と焦りがなかった。
 2回目のチャレンジ。1回目と同じように、@のパネルを残して、次々と打ち抜いていく。
 そして…、
『ゲッツ! ナイス、ストライク!!』
 ホームランの時と同じファンファーレが響き渡った。今回は、予備球を一つ残して、最初に落とし損ねた@のパネルを、見事に貫いたのである。
「ナイス、大和!…さて、最後のチャレンジだぜ」
「はい」
 ラスト・チャレンジとなる3回目。これまでと同じように、@のパネルを最後まで残して、大和はリズム良く的を射止めていった。
「………」
 右打者にとって、内角高めに位置する@のパネルは、少しでも内側に入ればホームランボールになる反面、絶大な球威と精緻な制球が重なれば、必殺のストライクコースになる。
 その位置を最後まで残しておくという大和の意図は、満にもよくわかった。そして、大和のストレートは間違いなく、例え狙われていたとしても、内角高めで空振りを奪えるほどの球威を有していた。
 その結果が…。
「!」

 バキィッ!

『ゲッツ! ナイス、ストライク!!』
 新調して点検したばかりのパネルが、粉砕されてしまうほどの、渾身の一球だった。
「お見事!」
 満は手を打って、課題であった二回連続となるパーフェクトを達成した大和を称える。パネルが破壊されたことは意に介することもなく、むしろ、それだけの威力と魅力を宿したストレートにお目にかかれたことが、彼には嬉しかった。
「大和っ! これだぜ、これ!!」
 いささか興奮したように、モニタの中で大和の投球を再生させる。@のパネルを粉砕した最後の一球を映し出して、何度もそれをリピートさせている。
 それは、まるで伸び上がっていくかのような、見るも鮮やかな軌跡を描いていた。
「右バッターの、内角高めをドンっと貫く必殺のストレート! こいつが、これからのお前の“代名詞”になっていくぜ、きっと」
「代名詞…」
「免許皆伝の祝いに、名前をつけてやる。“スパイラル・ストライク”ってのは、どうよ?」
「“スパイラル・ストライク”」
 まさか自分の直球に、そんな大仰な名前をつけられるとは思わなかったが、そこはやはり男子たるもの。“スパイラル・ストライク”という、なにか“必殺技”めいたものを感じさせるその響きに、大和の頬は自然と緩んでいた。
「満さん、ありがとうございます」
「気に入ってくれたか? なら、なによりだぜ」
 満にとっても、“名付け親”になれたことが、嬉しかったようだ。はにかんだような笑みを張りつけながら、再び、モニタの中で唸りを上げる大和の“スパイラル・ストライク”を眺めていた。



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