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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第8話-23


「………」
 5番打者が右打席に入る。捕手を務めているその打者は、さすがに落ち着いた雰囲気を持っていた。
 だから桜子は、今度は露骨にミットを外角へ構えた。打者の目に入るぐらい大きな動きで。誰の目から見ても“そこに投げますよ”というのがわかるほどだ。
「ストライク!」
 お約束どおりに投じられた外角低めの球を、打者は空振った。ボール球に手を出したのだ。
「〜」
 狙い定めていた球が来た、という力みが、その選球眼を狂わせたのだろう。桜子は初めから、ストライクを投げさせるつもりなどなかった。スイングしてくれるならもうけもの、という考えでいたのだ。
 ボール先行を初めから意図したリードなのだが、逆にそれは大和の制球力を信頼した証でもある。
「ストライク!!」
 外角低めが連続した。それにも関わらず、相手は振らなかった。初球のボール球に手を出した反省が、逆に思い切りを奪ってしまったのだろう。
「………」
 桜子が内角高目を要求するような動きを見せた。腰を幾分浮かすような仕草で、ミットも内側に寄っている。
「!」
 雰囲気でそれがわかるのだろう。相手打者の構えに、力が篭もった。“例のあれを投げる”という殺気を発した桜子の動きに、5番打者は吸い寄せられていた。
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 もちろん、“例のあれ”は来なかった。まるで逆球のように、外角低めに投じられた大和のストレートが、瞬時にして移動した桜子のミットを貫き、主審のストライクコールを呼び込んだ。
 それは、桜子が大和に要求していたコースだ。桜子のフェイクに、ものの見事に彼は陥れられていた。
「〜〜!!」
 陥穽に落ちた、という表現がぴったり来るほどの、相手打者の悔しがりようであった。
「エクセレント!」
「ナイスリードだぜ、桜子!」
 エレナも雄太も、余りにも鮮やかな桜子のリードに舌を巻いていた。
 相手のクリーンアップに対して、このバッテリーは、ウィニングショットであるはずの“スパイラル・ストライク”を1球も使用しなかったのだ。前の回で執拗なぐらいに連続で投じたその球を、一転してこの回では使わなかった。
 “例のあれが来る”という相手の気負いを逆手に取って、ウィニングショットを“投げない見せ球”にし、享和大のクリーンアップを三者三振に退けた。
 あわよくばこの回で同点に、という相手の気概を捩じ伏せるには、充分すぎるほどの結果であった。
 それは即ち、1点差でありながらこの試合の趨勢が、完全に決したことと同義であった。



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