『SWING UP!!』第8話-14
「………」
二球目は同じインコース。球種はストレート。だが、コースは低め。
「ストライク!!」
相手はこれも見送ったが、主審の手は上がっていた。
(まあ、様子見ってところなんだろうがな)
三球目はアウトコース低め。そして、求められてきた球種は…、
「アウト!!!」
小さくスライドする、いわゆる“小カーブ”だった。相手は振りにきたが、明らかにタイミングは外れており、結果、鈍いショートゴロとなった。もちろん、岡崎はそれを難なくさばいて、打者走者を一塁でアウトに仕留めていた。
執拗に内角を攻めてから、外角で勝負を仕掛ける。これはオーソドックスな配球といえるかもしれないが、違ったのはカーブの種類だった。これまでなら、雄太にとってのウィニングショットである緩くて大きなカーブを使っていただろうが、桜子が選択したのは、球威が少しだけ上がる“小カーブ”の方だった。
考えてみれば、雄太のウィニングショットであるはずの“大きいカーブ”は、この回の初球にしか見せていない。それはつまり、イの一番に最高級の球を見せておいて、実際のところはストレートを主体にして配球を整えてきたのだ。
なかなか老獪なリードである。
(伊達に背番号27を選んでないってか)
背番号27といえば、リクルト・イーグルスに所属していた名捕手・古矢を筆頭にして、捕手の代名詞にもなっている背番号だ。各プロ球団を見渡してみても、レギュラークラスの捕手はそのほとんどが“27番”を身に着けている。
そしてそれは、セ・リーグにおいて未踏のV9を達成した東京ガイアンズの伝説的な捕手・森保の背番号が“27”だったことから由来している。
桜子はそれにあやかったのだろう。そして、“27番”がそういう番号だと知っているということは、野球の歴史に精通している証でもある。
『22番とも迷ったんですけど、この番号でいきます』
22番といえば、彼女が応援している浪速トラッキーズの名物捕手にして希代のホームランアーチストと呼ばれた田伏が背負っていたものだ。そのイメージが残ったものか、トラッキーズを支えてきた捕手の番号といえば“22”が真っ先に浮かぶ。
もっとも、通算で300セーブという大記録を達成した、元・京浜レインボーズのスーパーストッパー・佐々丸や、同じく“消えるシンカー”を代名詞に持っていたリクルト・イーグルスの高洲の登場によって、“22”という番号は、“リリーフ・エース”が持つものという印象が強くなった。ちなみに、“彗星ストレート”を武器にして、200セーブ以上を挙げている浪速トラッキーズのクローザー・藤山も、その背番号は“22”である。
「チェンジ!」
それはともかく、双葉大学軟式野球部にとっては、初回に大量点を奪われた2部リーグの決勝戦とは違い、幸先の良い船出となった。