THANK YOU!!-7
瑞稀は、柵を開けて静かにプールへ足を踏み入れた。
最後に入ったのは・・いつだろうか。・・恐らく。高校一年になって、夏休みの時に拓斗に連れてこられた以来だろう。
そしてプールの縁へたどり着くと、そこにそのまま座り込んだ。
じっと・・・プールの中の水へ視線を向ける。
「・・懐かしい。ここが、一番・・」
そう呟きながら、右手を伸ばして水に触れる。
冷たい、水。
軽く掬ってみてもすぐに手からこぼれ、プールの水へと還っていく。
あまり、プールへ手を入れると、服の袖が濡れてしまうかもしれない。
それでも、瑞稀は止めなかった。
「・・・ここは、アイツとの想い出が一番ある・・」
告白されて・・、諦めかけていた自分の気持ちをぶつけて・・初めてキスをして。
恋の半分をここで経験したようなモノだった。
勿論、出逢いもこの小学校でだった。
瑞稀は、中岡先生の言葉を思い出した。
「・・・別に・・アイツが、嫌いになったんじゃない」
むしろ、大好きな位。
でも、初めての、海を超えた遠距離恋愛なんて・・・無理だと思った。
“付き合っていたなら、何故言わなかったのか”
付き合っているからこそ、相手が不安になるような事をするのは嫌だった。
大好きだから。
だからこそ、離れていちいち不安にさせる幸せよりも、違う幸せを見つけてくれた方がいい。
本当は、ずっと言ってしまいたかった。
“居なくなってしまう”という言葉。“でも、忘れないで”って言葉も。
でも、それを言ってしまったら、自分にずっと縛り続けることになる。
なら・・何も言わず、勝手に消えて・・嫌われて、他の人と幸せになってもらえる方がいい。
そして、自分もいつか忘れることが出来れば・・・。
そう、考えていた。
本当は、分かっていた。
ボスの言った、“忘れ物”がなんなのか。分かって・・気づいていない振りをした。
賞を取ったあの時の自分にあって、今の自分に無いもの。
それは、たった一つしかない。
でも、もう遅い。突き放してしまったのだから。
二度と、会うことも無ければ・・温もりに触れることも無い。
だが、拓斗の為と言い張って・・5年が経った。
それでも、どうしても、埋まらない。
大好きな人と一緒に居られない、支えてもらえない寂しさが・・埋まらなかった。
「私・・わかっちゃったよ・・」
瑞稀が掬った水に落ちるのは、悲しみの水・・。