THANK YOU!!-5
時間は早々と過ぎ、あっという間に成田空港へ行く時間になった。
しかし玄関に立ったのは恵梨と、ネイビー色のトランペットケースを肩から斜めにかけている瑞稀だけ。家族は、中にいた。
祖母が、不安そうに声をかけた。
「本当に良いの?空港まで見送りしなくて」
「うん。三人には、ここから見送って欲しいんだ。で、ここで待ってて欲しいから」
「・・分かったわ」
他ならぬ、瑞稀の願いだった。
自分はいつか帰ってくるのだから、自分の居場所である家で、待ってて欲しかった。
自分の居場所がわかるように、ここから見送って欲しいと言った。
最初は勿論渋られたが、瑞稀の願いを断れなかった。
「・・じゃあ。行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
いつものように笑顔でドアを開け、家を出た。そして、先に待っていた恵梨と共にエレベーターに乗る。
家族は、涙を流さないように耐えてベランダに向かった。
やがてエレベーターを降りた瑞稀と恵梨が裏口から出てきて見上げる。
瑞稀は笑顔で片手を振った。家族も、それを返す。
返してくれたのを確認すると、瑞稀は恵梨を促して前を向いて歩き始めた。
三人は、瑞稀の姿が見えなくなるまでそこに居た。
『行ってらっしゃい』
三人は、声を合わせて言った。
大切な家族の一員が進む先にある未来が幸せなことを願って。