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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-5



「ちょっと黙ってろよ」
「な、なんなのアンタいきなり!」
「瑞稀にトランペットを教えたのは俺だ。俺も瑞稀に言う権利はある」

息子の初めて見せる勢いに負けた祖父母は、大人しく黙った。
叔父はそんな親二人を尻目に、瑞稀に向き直った。
不意に流れた涙を服の袖でグイッと拭った瑞稀は、何を言われるのだろうと叔父を見た。

「・・・瑞稀。今、拭ったその涙は、誰が誰の為に流した?」
「え・・?」

瑞稀を含めた三人が、思いもよらぬ言葉に驚いた。
叔父の真意を聞こうとした祖母は叔父の方を見たが、何も言えなくなった。
優しい言葉とは全く違い、凄く真剣な表情をしていたからだ。
瑞稀は、叔父の言葉の意図が掴めなかったが、その顔を見てハッキリ答えようと思った。

「・・私が、私の為に。」
「そうか。・・じゃあ、何で流した?」
「それは・・・。・・・初めて、自分の夢とか言えて安心したけど・・でも認めてくれなくて・・悔しくて」

再び、目に涙が溜まったが、泣くまいと顔をあげて膝の上に置いてある両手を握る手に力を入れた。その様子を見た叔父は顔を緩めた。

「瑞稀。お前はどうしてトランペットを始めた?」
「・・え?・・えっと・・お兄ちゃんが吹いてるのを見て、カッコイイと思ったから」
「どうして、続けた?」
「・・・お兄ちゃんを、超えたかったから」

その言葉を聞いた祖父母は驚いて、真剣な眼をしている瑞稀を見る。
どうせズルズル続けているだけだと思っていた。その孫が、こんな理由を持って吹いていたとは、微塵にも思わなかった。

「・・・どうして、トランペット奏者になりたい?」
「・・・。・・・細かい理由はいっぱいあるよ?でも・・」

そこで、言葉を切った瑞稀は、うつむいた。
人々に音楽を聴かせたいから。自分がどこまでやれるかチャレンジしたいから。
まだお兄ちゃんを超えていないと思うから。トランペッターで終わらせたくないから。
その小さい理由はあえて言わない。これらは、自分の心だけで思っていれば良いことだ。そっちよりも、伝えたいのはもっと別の大きい理由。
小さく息を吐いた瑞稀は、顔をあげて言った。満面の笑顔で。




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