想いの行方V-1
(仙水・・・?)
心なしか、仙水の表情が曇ったように見えた。
―――――・・・
翌日、日が昇り始めた頃・・・
葵は桜色の可愛らしい衣に着替え、中庭へと急いだ。
「九条おはよう」
九条とよばれた彼は、漆黒の布地に藍色の美しい装飾を施した美しい布で体を包んでいる。艶やかな長い黒髪を軽く結っているが、そのひとつひとつが九条の美貌を引き立たせていた。
葵はうまく着こなせたと思った自分の姿を見て、無言になった。
「私の格好・・・九条と釣り合ってない」
居た堪れなくなった葵は俯いてしまう。誰に見せるわけでもないが、センスの良い九条と仙水に囲まれては、自分だけが別者みたいになってしまう。
その時、くすっと笑う声がして葵が振り返ると・・・
庭で摘んだ一輪の花を手にした仙水が葵の髪に優しくそれをさした。
「あ・・・仙水・・・」
葵の髪には王宮にしか咲いていないガラス細工のように透き通った花びらをもつ可憐な花がキラキラと輝いている。
優しく花をなでる仙水の手が、花から葵の頬へとおりて離れた。
「私には誰よりも・・・葵様が一番素敵に見えますよ」
ほのかに赤く染まった仙水の頬。照れたように薄く微笑みを含んだ口元。つられて葵までもが照れてしまいそうだった。
「ありがとう・・・仙水」
「・・・・」
何か言いたげな視線を向ける九条に気が付く様子もなく仙水は葵の背に触れた。
「では、参りましょうか」
仙水の声に葵が時空の魔法陣を召喚すると、三人の姿は吸い込まれていった。
―――――・・・
「あ、この花はたしか・・・」
秀悠に教えてもらった玄の花が今日も変わらず心地よい風にその身を揺らしていた。
「覚えていただけましたか?この花の名前」
その声に顔をあげた葵の目の前には・・・
「秀悠さん、おはようございます」
微笑みかけた葵に笑顔でこたえる秀悠。
「よかった、また逢えた・・・おはようございます葵さん」
「仙水もこの近くにいるんです、あと九条も・・・」
彼らを呼ぼうとした葵を制して、秀悠が口を開いた。
「少し、話しをしませんか?」