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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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想いの行方U-1

「そうだ、仙水ありがとうね。これ借りたままだった」





葵が仙水の衣を返そうと手をかけると、その手を仙水が遮った。脱ぎ掛けた衣をもう一度かけなおす。





「もう少しこのままでいてください」





「え?」





意味がわからず葵は仙水にされるがままに再度、彼の衣に身を包まれた。




「・・・・」





不思議そうに自分を見つめる葵の手をひいて、仙水は遅めの朝食を造りに炊事場へと向かった。





「こうしていると・・・私の心が満たされるんです」




あまりにも小さく呟かれた仙水の言葉に葵は彼の顔を覗きこんだ。




「なぁに?仙水」




愛くるしい瞳を瞬かせて、葵は仙水の隣を歩く。




「内緒です」





仙水は嬉しそうに指先を唇につけると、葵に微笑み前を向いて歩き出した。





楽しそうな仙水の顔をみた葵は自分も嬉しくなり、優しく握られた手を握り返した。





鼻歌まじりの仙水が次々と料理を完成させていく。お皿に盛りつけるのを葵が手伝っていると、幸せそうな微笑みをたたえた仙水に何かを差し出された。



置いてきたはずの、あの森で採れた果実だった。




「口をあけてください」





にこにこと仙水が指先を口元に近づけてきた。




「わぁっ、仙水ありがとう」





小さく口をあけるとほんの少し仙水の指先が葵の唇に触れた。もぐもぐと口を動かしている葵は満面の笑みで果実を味わっている。




「・・・・」





葵の唇に触れた指先が熱い。じっと指先を見つめている仙水に気が付いた葵は、




「ごめんね、もしかしてひとつしかなかった・・・?明日また採りに行ったら今度は私が仙水に食べさせてあげるね」






「・・・っ」





無邪気に顔を覗きこまれ、仙水はばっと顔を逸らした。その頬はわずかに赤く、心臓の音は激しく高鳴っていた――――





「・・・明日もまた森に行くのか?」





食事を口に運びながら九条が葵と仙水に目を向けた。




「えぇ、そのつもりです」





仙水が答えると、葵も嬉しそうに頷いた。





「ならば私もついてゆこう」





九条が静かに言葉を発しながら席を立った。九条のその動作を見守っていた葵は、仙水の視線に気が付いた。





「そうですか・・・」







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