『正夢』〜高山渉の一日-1
目の前に広がる夕日、いったいここは何処だろう。隣から声が聞こえてくる。とても安心する声…。俺は何処かで聞いている。俺は顔を横に向けた。隣にいた女の子と目が合い、そして思い出した。ああ、この声は…。
ジリリリリ!!!
「うおぅ!」突然の目覚まし時計のベルで俺は目を覚ました。慌ててベルを止めて、ふと思う。いつもなら時間通りに起きるわけないんだがなぁ…。というか、さっきの夢は一体…?
一通り朝の用事をすまし、学校へ行く支度をする。俺は両親の反対を押しきり、一人で生まれた場所から飛び出してこの街に来た。高校で独り暮らしなんてカッコイイ!とか思っていた去年の自分が恨めしい。
そんなことを思いながら家を出る。今日は終業式だから真面目に学校に行く。明日から新しいバイト探さんとなぁ…。
戸締まりをして家を出る。冬休み中にはしっかり稼がないとなぁなどと考えながら学校に着いた頃には夢なんか頭から吹っ飛んでいた。
『渉!』
教室に入ろうとすると後ろから声をかけられた。声を聞けば誰だか分かるが、一応振り向く。見知った顔が目の前にあった。
「どうしたよ?翔」
高槻翔(たかつきしょう)…俺の親友であり、喧嘩友達でもある。今までに勝敗がついたことはない。全部引き分けだ。
『冬休みの旅行、考えといてくれたか?』「あぁ、旅行かぁ…。」今まで金は派手に使ってはいないので、遊びに行く金くらいはあった。
「俺は大丈夫だけど」『そうか、んじゃメンバーはいつもの四人だな』「珊瑚(さんご)も来るのか。本当にいつものメンバーだな」『まぁそう言うなよ。気心しれたメンバーってことでさ』「本当は高瀬と二人で行きたいんじゃないのか?」
翔は一週間くらいまえから高瀬恵(たかせけい)と付き合っている。前は彼女なんかつくらないとか言ったくせに…薄情な奴だ。
『うるせぇな』
翔をからかっていると、廊下で手を振っている女の子を見つけた。あれは…高瀬だな。
『悪い渉。また後で話すわ』そう言うと、翔は高瀬の方に走っていってしまった。恋は友情に勝つんだなぁ……薄情な奴め! だけど、しばらく四人で遊びになんか行ってなかったなぁ。俺は自然と顔が緩むのを感じた。
式が終わり、荷物を(まとめるほど量はないが)まとめていると、後ろから呼び掛けられた。振り向くと、そこには見知った顔がいた。高久珊瑚(たかくさんご)翔の言った《気心しれたメンバー》の一人だ。と、同時に俺片思いしている女の子でもある。
『ねえ、高山くん。今暇?』俺は珊瑚に《くん》付けで呼ばれている。前に翔から聞いたところ、どうやら最初の頃、見てくれというか、雰囲気が恐かったかららしい。別に呼び捨てでいいんだけどな…。翔は高瀬と一緒に帰ったから、大方帰る仲間がいないって所だろう。「あぁ、暇だけど?」『じゃあ今からお昼でも食べに行かない?』特に断る理由もないので付いて行くことに決めた。
『恵ったら毎日翔とののろけ話を聞かせてくるんだもん。疲れちゃった』「ははっ、翔も同じようなもんだよ。確かにあれを聞くのは疲れるわな」『でしょ〜!?』お昼を食べた後は、二人で街をブラブラとしていた。服を見て、CDを買って…端から見たら、デ―トに見えなくもない。……っつうかデ―トか?デ―トしてんの俺?珊瑚と!?
俺は横目で楽しそうに料理の本を読んでいる珊瑚を見た。高瀬よりは大きいが、それでも高いとは言えない身長。肩下辺りまであるストレ―トは校則通り綺麗な黒髪だ。周りからすれば、高瀬と同じような《守ってあげたい》女の子に分類されるだろう。確かにかわいい…。
……ふと、顔が赤くなる。なに、俺緊張してんの!?珊瑚にデートをしているとか、そんな気はないだろう。ヤバイ…どうにかして平常心を取り戻さなくては!とりあえず深呼吸をしてみる。………だめだ!!逆に息苦しくなる!どうしようかと思案にくれていると、珊瑚が本を閉じてじっとこちらを見ている。『高山くん、風邪っぽい?顔赤いよ?』「あ、あぁ…。そうかもな」どうしたよ俺!?昨日まではなんにも意識しないで接してきたのに!
『ごめんね、無理させちゃって。今日はもう帰ろっか?』「あ、そうだな…」