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『正夢』
【青春 恋愛小説】

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『正夢』-2

2 恵が泣いている…。
俺は西村がいることを忘れて恵に近寄った。
「恵!!何があった!?」
「翔ちゃん?…翔…ちゃん…」

恵はしゃくりあげながら何かを言っている。「…めて……たのに…」「え?」
「ファ―スト……キスだったのにっ…」

俺は恵の方を向いたまま西村に問いかけた。「おい…てめぇなにやったんかわかってんのか」拳を握りながら西村の方に振り返ると奴は動揺しているのか、早口に言い訳を始めた。
「いや、高瀬そんだけ可愛いから遊んでんだろと思って…、軽くしちゃったら泣いちまうんだもん!それに高瀬は今彼氏いないからいいかなって……」
もうこれ以上こいつの言葉を聞きたくなかった俺は、握っていた拳を西村の顔面に突き刺した。ミシィッと骨のきしむ音と拳に伝わる肉の感触。西村はそのまま倒れそうになったが、これくらいで済むわけがない。
「立てコラァ!!」西村の制服の胸ぐらを掴み、無理矢理立たせる。うめき声を漏らしているが、こいつがどうなろうと今の俺には関係ない。

二発、三発、四発と西村に拳を打ち込む。七発目あたりからもう白眼をむいていた。まだ殴り足りないと思い拳を振り上げた時、急な頭痛が襲ってきた。西村を放し、その場にうずくまった。何かが浮かび、思い出される。

西日の射す教室、目の前で顔を押さえ倒れている男。酷く痛む拳、泣いている恵…。
まさか…。

「正夢だってのか…?」

もし正夢だとしたら俺はなんていう夢を見てしまったんだろう。俺の夢のせいで恵は…。ふと、後ろを向くと恵が俺の腕を掴んだ。「翔ちゃん…もういいよ…帰ろう…」
「恵…」

帰り道を二人で歩く。いつもなら他愛のない会話があるのに、今日はそんなのは考えていられなかった。あまりの気まずさに空を見ていると、ぽつりぽつりと恵が放し始めた。
「最初にあの人が来たとき、なんか言われたら断ろうって思ってたんだ。告白とか何回かされたことあったし…」
俺は黙って話を聞いていた。恵はそのまま話を続けた。
「音楽室に行って、告白されて、断わったのに何回も言ってきて。いきなり抱かれて、キスされて…」
思い出したのか、声が震えている。俺は何か言葉をかけたいのにそれが出来ない自分を憎んだ。
「翔ちゃんにあげたかったのに…」
「へ?」
自分でも間抜けな声をあげたと思う。
「だって普通は好きなやつにあげるものなんじゃ…」「ずっと…ずっと好きだったんだよ?翔ちゃんのこと…」

顔が熱い。多分今おれの顔は真っ赤だろう。片想いだと思ってたのが両想いだったんだから。自分の顔の赤さと格闘していると、恵はいきなり抱きついてきた。
「お、おいっ…」
「キス、して…」
恵は上目使いに俺を見る。俺はとても混乱していた。

「いいのか…?」
「翔ちゃんなら構わないよ。だから、お願い…今日一日だけっ、私の彼氏でいて?」
ここでやらなきゃただの根性なしだ。俺は覚悟をきめた。だけど、その前に間違いは直しとかないとな。
「なぁ、恵…」俺は恵の額に自分の額をくっつけた。「ひとつ言っとくけどな…おれもお前が好きだった」恵の目が驚きで見開かれる。「だから、今日一日だけとか言うな。これからもずっと一緒にいよう…」
「翔ちゃ…」恵に顔を見られる前に唇を重ねた。今の顔を見られたら笑われそうなくらい赤いだろう。
どちらからともなく唇を離す。「帰るか?」「うん!」

二人で手を繋いで家路につく。子供のころ歌っていた歌を口ずさみながら。今日はいい夢がみられそうだ…。
終わり


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