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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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想いの行方T-1

「もうひとつ残念なお知らせが・・・」





言いにくそうに仙水が蒼牙へ微笑みをむけた。




「ん?なんだよ」





「・・・朝食にと考えていた森の恵みが・・・消えてしまったんです」




ふたりに挟まれていた葵はくすくすと笑っている。




「ごめんね蒼牙、森の恵みは明日・・・楽しみにしていてね」




葵になだめられて蒼牙が大げさにため息をついた。




「はぁ・・・しょうがねぇな・・・
お前に言われたら頷くしかねぇだろ・・・」





ぶつぶつ言いながらも葵の微笑みに足取りが軽くなる蒼牙。




「そろそろ王宮に戻りましょうか」





仙水の声に頷いた葵は片手をあげて魔法陣を召喚し、彼らとともに住み慣れた王宮へと向かって地を蹴った―――






それまで身をひそめていた二つの人影は、彼女たちの姿が消えると、戸惑ったようにその姿をあらわした。





「今のは一体・・・王宮・・・?葵さんは何者なんだ・・・?」





「そういえばどこかで聞いたことがある・・・仙水・・・葵・・・蒼牙って・・・・まさか・・・・」





秀悠と曄子のふたりは、不思議な力をもつ彼女たちの立ち去った場所からしばらく動くことができなかった。





―――――・・・






王宮に戻ると、噴水の傍に九条と大和の姿を見つけ葵が駆け寄った。




「遅くなってごめんなさい、すぐに食事の用意するね」




「葵・・・仙水とどこにでかけていた?」




振り返った葵は九条の問いに笑顔を向けた。





「朝食に森の恵みをいただこうと下へおりてたの」




「・・・で、食材は?」





手ぶらで戻ってきた三人をみた大和は、葵をからかうように彼女の前髪をいじっている。




「仙水なんて『森の恵みが消えてしまったんです』、なんて言うんだぜ?朝早く出かけて二人とも何やってたんだか」




と、仙水の口調を真似て蒼牙が口を尖らせた。




「それを下界では『逢瀬』というみたいですよ?」




その言葉に葵が仙水を見ると、彼は葵に向かってウィンクしてみせた。




「・・・なんだと?」




それまで黙って聞いていた九条が組んでいた腕をおろした。ジロリと仙水を睨む。




「私たち、夫婦に見られたんです。ね、葵様」




笑って頷く葵の肩には仙水の衣が今もかけられている。






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