THANK YOU!!-5
「・・遅くなって、ゴメン。だけど、俺・・お前が・・瑞稀が好きだ。すっげえ、好きなんだ」
「・・・・・!」
始めて名前で呼ばれたことと、ずっと心のどこかで待っていた言葉を聞けた瑞稀は驚きと嬉しさで声が出せなくなり、また違う意味での涙も溢れる。
本当なら、今にでも自分もそうだと言って抱きつきたい。
しかしひねくれてしまった性格が邪魔をして、なかなか素直に応えられない。それに、ずっと親友たちに拓斗の気持ちを否定してきた為に簡単に信じられないのも悲しいが事実だった。
ふるふると首を振った。髪に染み込んだ冷たい水が辺りにパシャパシャ音を立ててプールに溶け込んでいく。拓斗のシャツにも染み込んだ。
「・・・うそ・・だよ」
「嘘じゃない。本当。大体、剣道やってるから嘘なんか付けない」
「だって・・こんなだよ・・?こんな、私なんだよ・・」
「・・知ってる。」
「・・泣き虫で・・素直じゃなくて・・」
「知ってる。てゆーか、素直じゃないの自覚してたんだな」
「なのに、何で・・こんな私を・・っ!!」
いつもなら、拓斗のからかうような言葉に反抗する瑞稀が、涙を目に溜めて訴えた。
まるで、自分を好きになってもらえるはずが無いと。ずっと待ちわびた瞬間なのに、いざそれが来てしまうと現実味が無くて怖くなる。
そんな瑞稀の全てが分かっているように、拓斗はギュッと強く抱き締めて二つの意味を込めて瑞稀のおデコに優しく、でも控えめなキスを落とした。
ひとつは、これ以上自分を傷つけるような言葉を言わせない為。
もう一つは、本当に自分が瑞稀を好きなんだとわかってもらう為に。
「・・っ!!た、拓斗っ・・!!」
「・・本気だ。瑞稀が、好きだ・・。」
「わ、分かった、信じる、信じるから!!」
何回も告げられる「好き」という言葉に恥ずかしくなった瑞稀は慌てて拓斗の口を両手で塞いだ。信じるを得ない状況になってしまった。
拓斗が、自分の口を塞いでいる小さな両手を掴み、下ろして握り締めた。そして、目をしっかり合わせた。
「・・返事は・・?」
「あ・・・え・・っと・・」
瑞稀は拓斗の顔が直接見れずに赤くなった顔を横に逸らした。それを追いかけた拓斗は、瑞稀の頬に軽くキスを落とす。急な展開に驚いた瑞稀が自分の顔をバッと振り返るだろうと予測して。
その予想通り、先程よりも顔を赤くさせた瑞稀と目があった。
こうなれば全部ぶちまけよう。そう思った瑞稀は涙を堪えてさっきよりも大きな声で言った。
「・・・っ、好きだったよ、馬鹿!!」
「・・過去形なのか?」
「・・だって、忘れようとしたんだもんっ・・!馬鹿ぁ!!」
堪えられなくなった涙を、ポロポロと零しながら握られたままの両手で拓斗の胸をポカポカ叩いた。
拓斗はそんな瑞稀を愛しく感じながら両手を握り締めたまま水の中に強い力で沈めた。
そして。低い声で「馬鹿じゃないし」と呟いてから。
「・・ゴメン、辛い思いさせて。・・でも、頼むから・・本当の返事、教えてくれ」
「・・・っ」
寂しげな顔で、掠れるような声で囁かれてしまっては瑞稀の意地などどこかへ行ってしまった。涙を流したまま、でもちゃんと拓斗の目を見て。
「・・現在進行形の“好き”だよっ・・!!」
「・・っ・・」
二人がずっと想い待ちわびたこの瞬間。好きという想いをやっと伝えられた二人はお互いを強く抱き締めた。
そして、月の光に照らされ輝く水の世界で初めてのキスを交わした・・。