THANK YOU!!-6
文化祭で追われる頃。
拓斗の家に電話が鳴り響いた。
両親が居ない為に、偶然早く帰宅していた拓斗が出る羽目になってしまった。
半分面倒だなと思いながら、気怠そうに電話を取る。(『』は電話口を表す)
「はい、鈴乃です」
『・・ども、柊ですけど』
「・・柊か。久しぶり」
『ん、久しぶり・・。』
「何か用?」
とりあえず簡単に挨拶を交わす。秋乃は特別な用事が無ければ自分なんかに電話などかけてこない。早く電話を終わらせる為にも、早々に用事を聞き出す必要がある。
『・・瑞稀の誤解。解けた?』
「・・・・いや。」
『・・そう。・・じゃあ、告白もまだか。』
「・・あぁ、悪いな。じゃ・・」
瑞稀の話が出て、拓斗は電話を切ろうとした。
正直、もう諦めようとしていた。夏休みに一回すれ違ってしまっただけであったが、これで自信を無くしてしまった。
もし、会ったとしてもまた自分が瑞稀を傷つける言葉を言いそうで怖くもなった。
傷つけたくない、大切な人だから。
一度でも簡単に傷つけてしまうと、また傷つけてしまうんじゃないか。その不安が拭いきれなかった。
告白なんて、もってのほか。
誤解さえも解くことが出来ていないのに、更に混乱させるようなことを言ってどうしろというのか。
それに、瑞稀が自分を受け入れてくれるか・・全くもって自信が無い。いや、多分受け入れてくれないだろう。
なら、もういっそ諦めてしまえば楽になる。瑞稀への感情を忘れて生きていけば良い。
そう考えをまとめた。
電話を切ろうとした拓斗の言葉を遮って、秋乃から小さい呟きが漏れた。
それが聞き取れなかった拓斗はもう一回と頼んで、受話器を持ち直して耳にちゃんと当てる。
すると、少し大きい声で。
『好きな奴が苦しんでんのにプライドなんか関係ないんじゃないの』
「・・っ!」
『・・この言葉、前にも言ったよね。ま、あんときのお前の方がイイけど』
「・・・は?」
『今のお前だったら、瑞稀に振られても仕方ないかもね』
「んだと・・っ!!」
『今のお前に怒る資格あんの!!』
人が諦めようとしている理由を、さらっと言ってのけた秋乃に怒りを感じた拓斗。
我も忘れて、怒鳴ろうとした瞬間に電話口から聞こえてくる秋乃の叫び声。
明らかに怒気を含んでいて、いつもの秋乃らしくない。
電話口から感じる気迫に、拓斗は怒りも忘れて何も言えなくなった。
『今のお前は、瑞稀がどうのこうのっていう問題じゃない』
「・・・・なんだってんだよ・・」
『・・自分が傷つくのが怖いだけでしょ』
「・・!!」
吐き捨てられるように言われた言葉が、拓斗の心にストンと落ちていった。
この、何とも言えない不安は・・ただ瑞稀が自分を拒否するんじゃないかという不安だけじゃない。
自分を、守りたかっただけなんだ・・。
そう、本能的に悟った。
『前のお前だったら、なんだろうと瑞稀の傍にいようとしたくせに。今じゃ自分を傷つけない為に瑞稀の傍から離れようとするなんてね。』
「・・・柊。俺・・・」
『・・ま、好きにすれば?もう少し考えて、それでも諦めるって言うなら別に引き止めないし。』
「嫌だ、諦めたくない!!」
秋乃の言葉に、気がつくとそんな言葉が自然に出てきてしまった。
そのことに拓斗が一番驚いた。でも、それを待っていたかのように、秋乃は電話口で笑い声を漏らした。
『諦めないなら、手助けしてあげる。その代わり、確実にお前と会わせたいから・・高校一年の夏休みまで待ってられる?』
「・・・え?・・高一の・・夏休み・・・?」
すぐにでも会いに行けと言われると思っていた拓斗は、秋乃の言葉が予想外。
何も思いつかずに秋乃に聞き返すことしか出来ない。
『そ。高一の夏休みにあるイベントを利用する。それで良い?』
「あ、あぁ・・。って、まさか今日それが目的で・・」
『そうだけど?他にお前に電話なんかする用事無いし』
「・・・・ま、サンキュー・・」
自分に対しての変わらない扱いに呆れながらも小さく笑って、電話の向こうに居る大好きな人の親友にお礼を言った。
気がついてみたら、秋乃も自分の親友なんじゃないかと思ったが本人に言うと絶対否定されそうなので止めておく。
そして、大好きな人の事を諦めようとした弱い自分を立ち直らせるかのように、受話器を置いてパンっと両頬を勢い良く叩いた。
その目には電話を取るまでに無かった、確かな輝きが宿っていた。
『・・・大丈夫?なんか馬鹿なことしてる?』
「ばっ!してねえよ!!」
思いの外結構強く叩いたらしく、ジーンという効果音がつきそうな程膨らませて赤くさせた頬を片手で摩りながら、拓斗は涙目で電話に戻った。
秋乃は電話口で溜息をついていた。
『・・良い?とりあえず・・』
秋乃の作戦内容が、伝わった。