THANK YOU!!-4
「ちょ、阪本!痛いってば!!」
「あ。ゴメン」
瑞稀はバッと掴まれた腕を振り払った。見ると少し赤くなっているようだ。
大きなため息をつくと、手首を摩りながら辺りを見回して連れてこられた場所を確認する。どうやら人が居ない場所を選んだようで、静まり返った校舎の裏に居る。
改めて、愁に向き直る。
「で。話って何?あんまり時間かけて欲しく無いんだけど・・」
「うん。すぐ終わらせる。」
「良かった。・・じゃあ、どうぞ」
すぐ終わらせるとの言葉に安心した瑞稀は愁に会話の主導権を譲った。
相変わらず、何を考えているのかわからない表情で、愁は口を開いた。
「あのさ。拓の好きな人知ってる?」
「・・・・っ!?」
予想もしない言葉に、身体がビクリとする。
恨ましく愁を見る視線。そういえばと記憶を引っ張り出す。
愁は拓斗のことなら何でも分かる親友だったのにも関わらず、好きな人については全く知らなかったことに。
拓斗以外の人間に興味がない性格からだろうが、見当もつかないようでちょくちょく拓斗に直接瑞稀とのことで冷やかしを受けている理由を聞いていたぐらいだ。
その割には、拓斗に何かがあると必ずと言っていいほど瑞稀に言いに来たくらいだ。
拓斗が三中に行くことも、実は愁から教えてもらったことでもある。
「・・・やっぱ、知らない?」
「・・知らないっ」
「ふーん・・そっか。」
「・・それだけ?」
「うん。・・あ、でも、もう一個」
拓斗が好きな人のことをこれ以上聞きたくなくて居た堪れなくなった瑞稀は帰ろうと思い、愁に会話の終わりを聞いたが、もう一つあるようで引き止められた。
渋々、瑞稀は大人しくその場にとどまった。
「なんかさ。拓、ずっと元気無かったんだけど夏休み明けになった途端に元気取り戻しちゃって。」
「・・・・・?」
何が言いたいのか良くわからない瑞稀は首を傾げた。
元気になったのなら良いんじゃないのか。自分のことがどうでも良くなったんだじゃないかと寂しい気もするが。
その言葉が、頭を回っている瑞稀に愁は更に続けた。
「まぁ、ただ単に元気になったんなら良いんだけど。明らかに空元気。電話で話しててよく分かる」
「・・空元気?」
「うん。なんか多分夏休みの出来事がきっかけみたい。」
「・・・夏休み・・?」
一つだけ心当たりがある瑞稀は心がチクッと傷んだのに気づいた。
だが、勿論自分のことと決まった訳じゃないし、自意識過剰過ぎると考えを頭の中から消した。
「良く分かんないけど、すっごい大事な子の家に行ったけどすれ違っちゃったみたいでさ。」
「・・!!」
「それで、距離感じて寂しいらしい。絶対言わないけど分かった。」
「・・・」
愁の言葉に、瑞稀は目を見開いた。
勿論、拓斗が行った家は自分の家だけでは無いかもしれない。だが、ハッキリと、瑞稀の心がギュッと握られたかのような痛みを感じた。
自意識過剰過ぎるのかもしれないが、その人物が自分であってほしいと強く願ってしまう。
震える手を、愁に悟られないようにん握り締めて掠れそうな声を出す。
「・・大事だって・・拓斗が言ったの・・?」
「いや?俺が感じただけ。でも多分誰が聞いても分かると思うよ。情けない声でさ。」
「・・・それで、何で急に元気になったの・・?」
「なんか、電話の最後で色々考えてたのがまとまったみたい。なんつーか、覚悟決めたっていうか、振り切った・・みたいな」
「・・そっか・・。・・で。阪本は何でそれを私に言いに来たの」
「なんとなく。八神なら分かるかなって思っただけ。」
段々と顔をうつむかせる瑞稀から視線を外して、背中を向けた愁は「拓が心から好きな人。」と言うと、そのまま歩き始めた。
そのあとを追わなくてはと思う瑞稀だが、驚く程に足と心がその場から離れたくないと動こうとしない。
そうこうしている内に、愁が視界から消えてしまった。