★★-1
2月25日。
今日は待ちに待ったライブだ。
陽向はお気に入りのエスニック柄のスカートを身につけて、ライブハウスまでの道のりをルンルン気分で歩いた。
今回は今まで対バンしたことのないバンドばかりだと聞かされている。
少し緊張しながらライブハウスのドアを開け、受付でスタッフ用のシールを受け取り、スカートに貼った。
楽屋へ向かい、ドアを開けると知らない人だらけ。
その中に見慣れた三人の顔を見つけ、ほっとする。
「お疲れー!あ、俺ら最後から二番目だから」
早速出番を告げられ、ドキッとする。
「前後のバンドがどんなやつらだろーと、俺ららしくやろーぜ」
陽向の緊張を悟ったのか、大介はそう言った。
「うん」
「あ、俺らタバコ吸ってくるわ」
大介たちは楽屋から出ようとした。
「待って!あたしも行く!」
知らない人だらけの中で一人でいるのはいやだ。
陽向は煙たい喫煙所までついていく事にした。
外にある喫煙所では、既に他のバンドの人たちもいた。
「おーす。今日はよろしくお願いします」
社交的な大介は、色んな人に話し掛けまくっている。
早くも意気投合したのか、楽しそうだ。
陽向もむせ込むのをこらえながら輪に入り、得意の自虐ネタをかましていたらいつの間にか打ち解けていた。
「うす。お疲れっす」
また他のバンドの人が来た。
「お疲れ様で……五十嵐?!」
スティックケースを肩に引っ掛けながらタラタラと歩いて来たのは、あの五十嵐湊だった。
陽向は目を疑った。
「おー。何してんの、こんなとこで」
「何ってライブ…」
「お前バンドやってたんだ?知らなかったー」
五十嵐はヘラヘラ笑った後煙を吐き出しながら「楽しみにしてるわ」と言って、灰皿にタバコを放り投げてライブハウスへ入って行った。
「知り合い?」
洋平が五十嵐を目で追いながら言った。
「同じ大学。めちゃくちゃ嫌なやつ」
陽向も五十嵐を目で追いながら嫌味を込めて言った。
「相当嫌いなんだね」
陽向の口調で分かったのか、洋平は笑いながら煙を吐き出した。
こんなとこで五十嵐と遭遇するなんてありえない。
神様は意地悪だ。
でも、五十嵐がどんな音楽を演るのか気になる。