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It's
【ラブコメ 官能小説】

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★★-2

五十嵐たちのバンド、five woundの出番はトリだった。
つまりは陽向たちの次だ。
「あーっ!めちゃくちゃ楽しかった!」
洋平が楽屋に戻るなり絶叫した。
楽しかったのは嘘ではない。
しかし今日のライブは、今までで一番ダメだったんじゃないかと思う。
初めて見る顔ばかりだったが、自分らしく、そしてこのバンドらしく音楽をすることができた。
会場が一体感に溢れ、心地よいグルーヴが身体を駆け巡った。
それは良かったが、各々のミスが目立つところがたくさんあったと思う。
「明後日反省会だからな」
大介が笑いながら言う。
どんなにいいライブでも大介はいつもそうだった。
常に向上心を持ち続けている。
良かったからと満足してはいけない。
大介の前向きな言葉に、いつもはっとさせられる。
足りないことはまだまだあるはずだ。
「いやー…俺、結構ミスったなー」
「俺もワンテンポずれたし」
洋平と海斗が苦笑する。
「次出来ればいーんだよ。そのための反省会だろ?今日は今日、次は次。終わったもんはしょーがない」
大介が二人の肩を叩いた。
「ま、俺もミスったし。次がんばろーぜ」
大介の言葉に「そーだな」と海斗が言った。
「あ、そろそろ次のバンド始まんぞ。行こー」
ライブの楽しみは自分たちが演奏するだけではない。
他の人が自分たちの音楽を楽しんでくれるように、自分たちも他のバンドの音楽を心から楽しむことも大切だ。
四人は着替えを済ませ、会場に向かった。

トリだからか、それとも絶大なる人気があるのか。
会場は大勢の観客で賑わっていた。
後ろの方でステージを眺める。
しばらくすると、辺りが暗くなり、カウントの音が響き渡った。
と、同時に鳥肌が立つようなベースラインが鼓膜を貫いた。
五十嵐のバンドはスリーピースだ。
ギターボーカルの甘い柔らかい声が聞こえる。
そして、リズム一つ乱さないドラム…。

…上手い。

そんな単純な感想しか浮かばなかった。
目の前の音楽に、魅了される。
ふと、五十嵐に目を向ける。
いつも陽向をバカにする目は、楽しそうに笑っている。
そして、常にもの言いたげな口は心地よいコーラスを奏でている。
バンド全体がプロに見える。
悔しい。
認めなくないけど、五十嵐には敵わない…。

ライブが終わった後は恒例の飲み会だ。
外の冷んやりとした空気につつまれながら、居酒屋までの道を歩く。
「陽向の友達のとこのバンド…five woundだっけ?めっちゃ上手かったね!まじビビッた」
洋平が隣で興奮したように言った。
「ね、上手かった」
悔しいけど…という言葉を飲んで、陽向は笑った。
今日こそやけ酒だ。
悔しさに満ち溢れる。
居酒屋に着いた頃には既にみんな集まっていた。
座敷に上がり、空いている席に座る。
そこの席は喫煙者が多く、またしてもむせ込みそうになる。
でも今はそんなのどうでもいい。
陽向は悔しさを理由にお酒を水のように飲んだ。
酔うと多弁になり、人類皆お友達状態になる陽向は、これでもかという程喋りまくった。
また声が掠れ始める。
「ねー、今日のライブめっちゃ良かったじゃん。俺、ファンになりそー!」
開始から1時間が経った時、隣に座る金髪の男が陽向の顔をまじまじと見て言った。
「名前なんだっけ?ひなちゃん?」
「ひなたですよーっ!」
「陽向ちゃんか!ごめーん!てかちょー可愛い。彼氏いんの?」
「いないですよー」
あはは、と笑った時不意にその男に「ね、この後二人で飲み行こーよ」と囁かれた。
一瞬にして冷静になる。
男をキッと睨むと背後から「楽しそーっすねー。俺も仲間に入れてよ」という声が聞こえてきた。
身体を押しのけ、男と陽向の間に五十嵐が入り込んできた。
なぜだか、心臓が跳ね上がる。
「ジャンケンしましょーよ。負けた方が飲むやつ」
「ははっ。負けねーよ!あ、陽向ちゃんもやる?」
「こいつ、弱そーだからすぐ終わるっしょ。つまんないっすよ」
「な?」と五十嵐の意地悪な眼差しが向けられる。
一言一言が本当に腹立たしい。
嫌味を言う気も失せる。
陽向はふんっと鼻を鳴らして同じ席に座っている人たちと会話を始めた。
隣では金髪の男と五十嵐が楽しそうにジャンケンをし始めた。

何分経ったのだろうか。
男は酔い潰れて眠ってしまった。
五十嵐も相当酔っているのか、顔が真っ赤だ。
間もなく会はお開きとなり、皆で外へ出た。
今日もちょっと飲み過ぎたかな…と後悔する。
「陽向、大丈夫?帰れる?送ってやろーか?」
大介が心配そうに陽向に問いかける。
「へーきへーき!帰れるよ」
口ではそう言うものの、頭はフワフワ状態だ。
解散した後、陽向は一人で帰路についた。
視界がぼやけてフラフラと工事現場のフェンスにもたれかかる。
目を閉じるとあり得ない程のめまいと睡魔に襲われ、陽向はその場にうずくまった。
あーっ…気持ち悪い……。
少し休憩しよう。
陽向は夜風に包まれながらしばらく目を閉じた。



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