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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-9



「(・・・拓斗・・?)」

演奏中、ふと拓斗の声が聞こえた気がしてトランペットを吹く力を緩めた瑞稀。
それに気づいた優羽は隣で少し音を弱めた。
そんな優羽の気遣いに気付かないほど、瑞稀の心は拓斗に支配されていた。

「(もしかしたら、私の事を思い出してくれてるのかな。それとも・・応援してくれてるの?・・なわけないか。でも・・気のせいじゃないよね・・)」

頭に響いた、寂しそうな拓斗の自分を呼ぶ声。何故かはわからないけど、気のせいにしておけなかった。
それに、また拓斗の自分を呼ぶ声が聞けて、凄く嬉しかった。
人間は人を忘れるときは声から忘れていくという。実際、瑞稀は拓斗の温もりは覚えていても声は少しかすめるものしか無かった。
しかし、そんな瑞稀にハッキリと拓斗の声が聞こえた。思い出したなどではない。
どうして聞こえたのか、何で寂しそうなのか、疑問は雨のように次々と降ってくるけど。
それよりも、瑞稀の中から溢れそうな想いを・・拓斗に伝えたくなった。

「(・・拓斗・・っ)」

今だけは、意地なんて張らずに、心にずっと突き刺さっている卒業式の出来事も忘れて、ただ拓斗に会いたいという気持ちを伝えたくなった。
多分、この時間を過ぎればまた辛くなるかもしれない。でも、拓斗が好きだと言ってくれたトランペットの音を奏でている今だけは。

「(・・・拓斗・・)」

瑞稀は、トランペットをさっきよりも力を込めて持ち、音が出る場所であるベルを上げる。
その様子を横で見た優羽は少し驚いたがすぐに小さくしていた音量を最大にまで上げた。
丁度、曲が佳境に入ったところ。
瑞稀が、指揮に合わせて音色を変えた。
それは今までの瑞稀には無い、軽快で、優しい音色。
隣で吹いている優羽も、指揮を振っているヒカリも、最前列で聴いていた恵梨も、驚いた。
観客も、瑞稀のトランペットのハモリに惹かれ始めた。
本人はただ、拓斗のことを想いトランペットを吹いているだけ。ただ、想いをトランペットに乗せて奏でているだけ。

「(瑞稀ちゃんの音は・・鳥をイメージさせるような自由気ままな音だった・・それでも才能を開花し始めているくらい。)」

タクトを振りながら、頭の隅で思うヒカリの言葉を観客の恵梨が引き継いだ。

「(まさか・・ここにきてこんな音が出せるなんて・・。・・そう、イメージは・・大空。雲も星も月も全て受け入れる寛大な・・音。)」

恵梨は目を閉じて、まぶたに綺麗に澄み渡る青い大空を浮かべた。
金色に輝く月も、眩しく照らし付ける太陽も、様々な色の光を放つ星も、時々姿を変える雲も受け入れて色を変える、綺麗な空を・・。

瑞稀の音を知っている者は、全員が思った。
「瑞稀の才能が遂に・・開花した」と・・。

2曲の演奏が終わると、これでもかというくらいの拍手、喝采が送られた。
瑞稀たちが頭を下げるとまた一段と強くなった。
退場して控え室に戻る途中で、優羽や香菜に話しかけられた瑞稀はトランペットを握り締めて二人の会話に相槌を打ちながらふと顔を上げた。

「・・・伝わった・・かな・・」

遠い目をして呟いた瑞稀に、優羽や香菜は目を瞬かせた。

そして、この年。
さすがにまだ瑞稀個人が最優秀演奏者賞を取るまでにはいかなかったが瑞稀の才能が開花したことにより観客や審査員からも絶賛され、無事に最優秀団体賞を受賞することが出来た・・。



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