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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-7



結ばれていない紐を、慣れた手つきで結ぶと恵梨は腰を上げた。
ちゃんと結ばれた紐を確認すると、瑞稀は恵梨と歩調を合わせてコースの中に入り、猛ダッシュで運ばれるバトンを待つ。
予想以上に接戦で、プログラム最初の学年種目である二人三脚は誰もが興奮していた。
ましてや、もうすぐアンカー。人々の期待は大きい。
瑞稀は先ほど吹いたソロよりも緊張状態にあった。

1時間前。
絽楽学園体育祭が開会された。
瑞稀たち吹奏楽部によるファンファーレで生徒が行進入場。そのまま開会式へ。
校長の長い挨拶を聞き流し、優勝旗返還、応援合戦が終わると瑞稀たちの吹奏楽部本番だった。
行進入場のファンファーレとは違う曲で、実行委員による競技準備の時間を稼ぐ算段だが瑞稀と恵梨の演奏の高さを証明するには良い機会だった。
二人はお互い、自主練で楽譜にアレンジを加えていた。(勿論、先輩の許可は取ってある)
また、サックスとトランペットのハモリが絶妙で、その場にいた保護者や教師、生徒たちが息を呑むほどで、正直準備なんて放ったらかしだった。

静かに伸び伸びしている恵梨のサックスの音色に癒され、軽快飛び回るかのような瑞稀のトランペットの音にノリノリになる。
アップテンポを繰り返しているかと思ったら、急に吠えるような響きになったり音をきれいに伸ばしてハーモニー調にしたり。
瑞稀のトランペットがくるくる変わる音を奏でた。
隣でサックスを演奏している恵梨や先輩たちもこれには驚きを隠せなかったが、瑞稀の才能が開花し始めていることにはとっくに気付いていた。
自由に吹く瑞稀のトランペットを少しでも響かせるよう負けじと音量を少し上げた。

恵梨のサックスのひと吹きで曲が終わると惜しみない大絶賛の拍手を貰って、大成功に終わった。片付けを手早く済ませてクラスの応援席に戻るとクラスメイト達からも感動の拍手をもらった。興奮の余韻も冷めないまま、競技が始まった。


ここまで、瑞稀のクラスは5クラス中3位。
やはりトップは運動部が集うスポーツクラスである5組。
瑞稀たちのクラス・・進学組4組はスタートが出遅れてしまい、優勝争いから抜けてしまった。
なんとか3位まで追いすがり、後半のペアで追い越す作戦だったがやはりどこも同じ作戦だったようで差は縮まらない。運動神経が良い人を残していたようだ。

「み、瑞稀、ちゃ・・!!」

二クラスが自分たちの横を抜けていくのを横で気配を感じ、後ろを振り返ると陸上部のペアが駆け込んできた。
今なら少し差が縮んでいるし、上手く行けば並んで走っている二クラスのペアを抜けられるかもしれない。そう思った瑞稀は手が震えた。途端に圧し掛かる負けられないというプレッシャー。

それを押し殺そうとした時、恵梨が軽く走り出した。バトンの受け渡しはアンカーが走り出してからというルールの為。しかし、瑞稀は一歩出遅れ、ふらついた。
そのふらつきで、手に渡ろうとしていたバトンを掴み損ねてしまった。
しまったと嘆き自分を責めようとした時、バトンパスをした陸上部のエースが間一髪で落ちそうになったバトンを持ち直した。
そして次の瞬間、「走れぇぇえ!!!」という声を上げてバトンを宙に投げた。

「・・!?」
「・・!っ、行くよ、瑞稀!!」
「う、うんっ!!」

競技を見ていた全員が驚きの声を上げ始めた。そして、勝負を諦めたんじゃないかとも騒ぎ始める。追いつけるわかがないと中1全員が思い、タカをくくった。
4組全員を除いては。

「まだ決められてたまるか!!」
「誰が諦めるのよ!!」
「二人なら行ける!!」
「いっけぇーっ!!!」

クラスメイトからの応援を受けた二人は練習時よりもスピードを上げた。
一人で全力疾走するくらいのスピードで、投げられたバトンを取りに行く。丁度バトンはトップを走る5組のすぐ後ろまで飛んでいた。それを、目前まで追いついた二人に会場全体から歓声が上がる。
信じられないという風にスピードは緩めないにも、驚いている二クラスのペア。
2位につけていたクラスのペアが宙を飛んでいるバトンに気を取られてバランスを崩した。
それを追い越し、落ちてきたバトンに瑞稀がこれでもかというくらい手を伸ばした。
ここで取れなければ優勝できない。なんとしても取る。
自分にプレッシャーをかけた瑞稀は強く地面を蹴った。飛ぶ・・とまではいかないが一瞬だけ宙に浮いた。
誰もが息を呑んだ。


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