無人島-3
さっきまでの土砂降りが嘘のように、空から雲が追い払われた。眩しい夏の太陽の光が、雨に濡れた森をきらきらと輝かせた。
ケンジとマユミは髪まで濡れそぼった身体を寄り添わせて波打ち際に座っていた。穏やかな波が二人の脚を優しく撫でている。
「きれい・・・。」マユミが言った。
「あっちの海岸からは見えなかっただろうなあ・・・。」
通り過ぎた雨が、ビーチの方角の空に大きく鮮やかな虹を描いていた。
「ケン兄と二人だけでこんなものが見られるなんて思ってもいなかった。」
「そうだな。」
「何だか日本じゃないみたい。」
ケンジはマユミの肩に手を置いた「いつき行きたいよな、フロリダとかハワイとか、グアムとか・・・。」
「行きたい。でも、あたし英語だめだよ、ケン兄もでしょ?」
「それはわいに任せとき。」不意に背後から声がした。二人はびっくしりて振り向いた。
「ケニー!」
「お前、なんでこんなところに?」
「結構前からいたで。雨が降り出したんで、上陸して雨宿りしとった。」
「そうか。雨宿りな。」ケンジは微笑んだ。「えっ?!」急に表情を変えたケンジが言った。「ま、まさかケニー、お前さっきの、俺たちの、その、あ、あれを、見てた・・・とか。」
「ああ。見さしてもろたで。ええもんやなあ、愛し合う二人の姿は実に美しい。」
「そ・・・・。」ケンジは真っ赤になった。
「見てたんだー、ケニー。興奮した?」
「そりゃもう。わいも我慢できずにイってしもた。」
「一声かけてくれれば・・・・。」ケンジがぽつりと言った。
「あほ。あの状況で声かけるほど、わい無粋やないで。そやけど、」
「何だよ。」
「わいに見られてるってわかってエッチしたら、もっと燃えたかもしれへんで?」
「そうかも。」マユミが言った。
「えっ?!マユ、見られるの平気なのか?」
「何だか、違う意味で燃え上がりそう。きっとケン兄もそう感じるよ。」
「ほな、今度はわいの見てる前でやってもらおかな。」
「そ、それは・・・・。」「やってみよ。」ケンジとマユミが同時に言った。ケンジはまた赤くなってうつむいた。
「ほんまラッキーやったな。こんなきれいな虹が見られるとはな。」
「まったくだ。」
「さっきも言ってたんだよ。南国のビーチみたいだって。」
「ほんで、ハワイとかグアムとかに行きたい、言うてたみたいやな。」
「そうなんだ。」
「二人の通訳としてわいが同行してもええか?」
「大歓迎だ。お前が一緒だったらどこへでも行けるからな。」
「それに、ハワイに行って、ケンジが劣情の波に呑み込まれてマーユに手え出さんように、わいが見張っとかなあかんもんな。」
「大きなお世話だ。」
三人は笑い合った。
「さて、陽が落ちる前にビーチに戻るとするかな。」
「そうだね。」
「ほな、わいはまたこっから泳いで帰るよってに、二人で仲良うボートで戻り。」ケネスはそう言い残して、海に入っていった。
「マユ、帰ろう。」
「うん。」
ケンジはマユミに優しくキスをしてから手を取って先にボートに乗せ、海にゆっくり押し出して自分も乗り込んだ。