投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

金魚とアイスクリーム
【純文学 その他小説】

金魚とアイスクリームの最初へ 金魚とアイスクリーム 6 金魚とアイスクリーム 8 金魚とアイスクリームの最後へ

本文-7

「バイトは毎日忙しいけど、最近なにをしたらいいかわからない。空白の時間を埋めるために働いているようで、なんだか虚しい。植物はわたしの部屋にいる。がらんとしたつめたい部屋に、わたしみたいに、時折その葉をしおらせながら。外はこんなに眩しいのに、光を避けて歩いているわたしがいる。日焼けが嫌なんじゃない。しばらく独りでいると、人との接し方がよくわからなくって不安だから、なんとなく視線をそらしてあるく。そおっと、誰にもきづかれないように願いながら。
 人に見られるのが不安なのは、わたしがかわっているから。自分でそう思い込んでいるからだろう。わたしは人より優れていたいとは思わないけれど、他人と違うのは怖い。だからいつも普通にして、着る物も聴く曲も友達に合わせて、『変』なわたしを他人の目にさらすまいとしている。自信がないんだ。着ている格好が今のでないと、外に出て行けない自分。そういうのってばかげてるし、自分でもわかっているのに、なかなかなおせないな、この病気」

「一葉のコーンにのせられし期待、はかなくも消え去りたり。さっきスーパーに寄ったけれど、彼女はいない。土屋さんがいたけれど、彼女のことを尋ねる勇気はなかった。ぼくは名前さえしらないのに、何をしているのだろう。自分をばかばかしく感じながら、帰る。彼女はなぜこれほどに自分をひきつけるだろう。長く独りで生活した疲れでも出たのだろうか……。
長らく、ぼくは詩を書いて生きてきた。詩人って訳でもないのに、椅子の上に何時間と座り込んでは、ひたすら『待つ』生活だった。詩を書くために部屋に閉じこもり、独りの生活を己に課した、と言えば格好がつくけど、実際には自分の独居癖を正当化するためのいいわけにすぎなかった。思い至って部屋から飛び出し、街のなかへ入っていっても、夕時には疲れて帰ってくる。いつも自分を外部に開くことの出来ぬまま、自己弁明を繰り返して引き篭もる。時々叫び出したくなりながら、自らの創造力を頼みにして、神秘家のクラス意識で失意を紛わした。
 詩を書くことは一つの回答であり欺瞞であり、かえって自己矛盾を露にさせるところの応急処置にすぎない。閉塞した空間の中での単一ループ。そこで増殖したくだらぬ想像の世界が己の渇望の大きさを表しているとすれば、『彼女』の発現こそが現実への唯一の逃走線と言うことになる。稀薄な現実感の中で<自分>さがしを始めたあの頃から、ぼくは他者との関係に於ける自分を捨てて、<自分>という妄想に自失していたのだった。
──『彼女』は確かに<ぼく>を開く鍵になる。それ故の欲情なのだろうか?」



金魚とアイスクリームの最初へ 金魚とアイスクリーム 6 金魚とアイスクリーム 8 金魚とアイスクリームの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前