神官T-1
王宮は彼らを快く歓迎している。彼らが一歩足を踏み入れると・・・王宮が彼らのための部屋を生成しようと形を変えてゆく。
神官は三人であるにも関わらず、新たに生成された部屋はひとつ多い。(きっと蒼牙の部屋だわ・・・)葵はひとり笑みをこぼすと、これから始まる新しい生活に思いを馳せていた。
そして広間にたどり着くと・・・
「あれ?」
さらに奥に美しい装飾のほどこしてある重厚な扉が目に入った。
『神官を迎え入れたのならば・・・そなたには玉座を与えよう』
「別にそんなもの・・・」
『・・・気が向いたら座る程度で良い』
ちらりと扉の向こうを覗くと、噴水が左右に清らかな水を流しており・・・玉座と呼ばれる美しい椅子は小高くなった中心にある。
その頭上はガラスで出来ており、空が見渡せるような作りになっていた。
なんとも神聖な空気が流れていて、自分が立ち入れるような場所ではない気がした。
葵が扉を閉めると"世界の意志"の笑う声が聞こえる。
『気に入らないか?』
「う、ううん・・・ただ私には・・・ちょっと早いみたい」
葵は逃げるように小走りに中庭へと戻った・・・すると九条の姿があった。
「・・・この場所・・・見覚えがある」
九条は近づいてきた葵と、その背後に建つ王宮の姿を見渡した。
「うん・・・九条は・・・ここに居たことがあったから・・・・」
驚きに目を丸くする九条は葵を見つめた。
「・・・・」
躊躇いがちに九条は視線を落とした。自分の前世で何があったか・・・はっきりと覚えていない彼は、戸惑いをみせた。この愛らしい王を見れば見るほどに・・・別の感情が湧き出てくる。
すると、葵のあたたかい手が九条の手を優しく包んだ。はっとした九条が葵を見つめる。
「・・・九条、前世の貴方たちのことは私がすべて覚えています。無理に思い出す必要はありません」
穏やかな葵の微笑みに目元を和らげた九条。
「あぁ・・・、己の過去をあれこれ悩むのはやめよう・・・」
九条の長い指が葵の頬をすべる。
すると、微笑みあう二人の背後から大和と仙水の声が届いた。