許した存在-1
「私が許した存在?」
『・・・あぁ、
この世界はお前そのものだ・・・』
首を傾げた葵は、もしかしたら雷神様に会えるかもしれないという期待をもちつつ、もう一度空を見上げた。
数千年後、彼女が成し遂げる"異世界"とのつながりはこのことが重要となる。まだ先の未来に葵は知る由もなく、ただ小さな期待に胸をおどらせていた。
―――――・・・・
さらに数十年。
いつもと変わりない朝を迎え・・・何かに気付いた葵は下界を見下ろした。
「いま確かに・・・・」
『・・・どうした?』
「斉条・・・、東条・・・・?」
それだけじゃない。
大和や仙水の気配が確かに感じられた。
意識を集中させると、懐かしい輝きが今まさに・・・この世に誕生したのだ。
「・・・・・っっ」
込み上げる喜びと懐かしさに葵は声もなく涙を流した。
『・・・ほぅ、人の子がなかなかやりおるな・・・』
人とは違う、不思議な輝きをもった彼らの魂は"世界の意志"をうならせるほどに強く煌いていた。
だが、斉条とも東条とも言えるひとつの魂は・・・どちらのものかはっきりわからない。どちらの気配ももち、どちらの心も持ち合わせているようだ。
『ふむ・・・魂の融合か・・・』
独り言のようにつぶやいた"世界の意志"は"人界の王"を取り巻く環境が大きく変わるであろうことを予測していた。
そして・・・数年後にまた小さな輝きが生まれ出た。蒼牙だ。生前の彼のように蒼い髪に可愛い八重歯・・・もう偉琉はいないけれど、頼もしく育ってゆく彼を葵は遠くから見守っていた。
彼らとの約束・・・でも、彼らには彼らの新しい人生がある。生前の記憶があるわけもなく・・・それでも生まれてきてくれたことに葵は感謝せずにはいられなかった。
祝福のような葵の祈りに夜空が煌いた。流れ星でもなく、降り注ぐ柔らかな光を漆黒の青年が空を見上げていた。手元にはこの世のものとは思えない美しい光を宿した宝珠が握られている。
「・・・葵様・・・」
小さく呟かれたその声と同じくして、紫色の髪に和服の美しい青年と、水色の髪の物腰の柔らかい青年が夜空を見上げていた。