サクラ大戦〜独逸の花乙女〜-12
第二話〜敵の名はザクセン妖魔騎士団〜
独逸・賢人機関司令部
「前回の戦闘において、独逸華撃団は第32蒸気中隊を壊滅させた敵機を三機で撃破、アイゼンギガントの奪還には失敗したものの、この戦果は霊子甲冑の威力の高さを再確認されるものとなりました」
軍服を着た士官らしき男が手に持ったレポートを見ながら言う。
「アイゼンギガントの消息は軍の総力を上げ捜索中ですが、結果は芳しくない模様です」
今度は違う士官が報告を行う。
奥の机に座った重役達が口を開く。
「やはり、かの方が絡んでいるのだろう」
「やれやれ、独逸帝国など、もう過去の遺物だと、なぜ解らんのか」
ガヤガヤと騒がしくなった会議の場を静めるため、議長と思われる精悍な老人が話し始める。
「彼が関わっていようと、いまいと我々は独逸の平和を守るために最善を尽くすだけだ」
会議が終わって、ダイリーはミラビリーシャに戻る蒸気車の中で思案に耽っていた。
(先程の会議での彼とはまさか……)
ダイリーの脳裏には、元皇帝にして、独逸を再度軍事国家として再編しようとした一人の男が思い浮かぶ。
「着きました、支配人」
運転席からアスカの声がし、ハッとなったダイリーは車を降りる。
「アスカ君、天城君を支配人室に呼んでおいてくれ、私はすぐに戻るから」
と伝えると、地下に向かうダイリー。
「天城君、支配人が部屋に来るようにと」
アスカは事務室で伝票整理を手伝っていた龍一郎を捕まえて、用件を伝える。
「解りました」
ペンを置いて事務室を出て、支配人室に向かって歩き出す。
事務室から支配人室への廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられる。
「よっ♪隊長〜!」
「かすみ、どうしたんだ」
問い掛けられたかすみは両手を合わせて、喋り出す。
「この後、ちょっと買い物に行かなきゃいけないんだげど、一緒に行ってくれないかい?」
龍一郎がダイリーの話があるので、断るか否か、考えているとかすみが長身を丸めて頼み込む。
「なっ!頼むよ、隊長、もうみんなに断られちゃって、隊長以外に頼れる人がいないんだよ〜…………」
さすがに、ここまで頼まれると龍一郎も断りきれない。
「解った、俺は支配人に呼ばれているから、その話が終わってからにしてくれ」
「ありがとうっ!流石は隊長!」
かすみの表情がパッと明るくなる。
コロコロと変わるかすみの顔は龍一郎からすると、多少見慣れていない部分もあり、興味深い。
「どうしたんだい?私の顔に何かついてる?」
その探究心が視線となって、かすみに降り注いでいたらしく、見つめられたかすみは頬を染めながら聞く。
「いや、何でもない」
龍一郎が少し気の利いた男性だったなら、かすみに対して多少なり洒落を交えた返答をしただろうが、彼にそれを要求するのは無理な話であった。
「じゃあ、俺は行くから」
体を回転させ、支配人に向かう龍一郎の背中越しにかすみの声がする。
「それじゃあ、バーで待ってるよ、隊長」
まるで遠くを見るような眼差しで龍一郎の背中を見つめるかすみ。
彼女もバーに向かって歩き出し始めた。
二人のいた場所には陽気な日差しが降り注いでいた。
ーコンコン………
「入りたまえ」
支配人室のドアをノックして、ダイリーの返事を確認すると、龍一郎は部屋に入る。
「そこに掛けたまえ」
ダイリーは愛用の机から離れ、応接用のソファに腰掛け、その前の席を龍一郎に薦める。
「はっ、それでお話とは?」
ダイリーの前に座った龍一郎は早速本題に入ろうとする。
「天城君、君はアランガルフという人物を知っているかね?」
龍一郎はダイリーの質問に出てきた人物の名前に聞き覚えがあったので、頷く。
「はい、たしか………」
頷いた龍一郎に相槌を打ってダイリーが口を開く。
「そう、独逸前皇帝だ」