長い眠りと消えゆく命-1
「葵様っ!!!」
涙をためた大和は冷たくなった葵の手をしっかりと握りしめた。零れ落ちる涙が葵の頬を濡らす。
「あお・・・いぃぃ!!」
葵の胸元にしがみつく蒼牙は泣きじゃくっていた。彼女が絶命間近なのは小さなこの子の目にも明らかだった。
目を開けた葵は数日振りに見る愛しい者たちの顔をみて微笑んだ。青白くその笑顔には力がない。
仙水が傷の手当てをしようと己の袖を破り葵の止血を試みる。
すぐに真っ赤に染まってしまう傷の深さに涙がこぼれた。
葵はそっと仙水の手に手を添えると弱々しく立ちあがった。
「はや・・・くっ、建物の中へ・・・・」
一際激しく吹き荒れる風に葵は上空に目を向けた。
空を覆うほど巨大な隕石が赤くマグマのように煮えたぎっている。
両手を広げ、翼を広げ・・・
葵の全身が銀色に輝き、その命をもって・・・いま、ひとつの賭けに出た。
(私の命とともにこの隕石と・・・小惑星を消滅させられれば・・・っ!!)
消えた魔方陣を通り抜け、数えきれぬほどの隕石が流れ星のように落ちてくる。
それらは葵の光に引き寄せられるように、葵へ向けて落下の速度をあげていった・・・。
葵の命の輝きは儚く美しかった。
その力が底をつき、葵の瞳から光が失われ・・・その体が大きく傾いたとき―――・・・
葵の体を支えたのは斉条、大和、仙水・・・と小さな蒼牙のぬくもりだった。
失われてゆく感覚の中で、愛しい彼らの声が聞こえた。
「葵様・・・例えこの身が滅びても・・・何度でも生まれ変わり、貴方のもとへ・・・・」
目を閉じて涙を流した葵が一瞬微笑んだようにみえた。傷ついた葵の翼が彼らを守るように広がり・・・激しい轟音と輝きののち、辺りは静寂に包まれた――――
ひとつの試練を乗り越えた人界だがこの日を境に王の姿が見えなくなり、人々は苦しい生活を強いられることとなる。
――――最後まで戦った王と、彼女を支えた四人の民の亡骸は消滅してしまったのか発見されることはなかった―――――
勇敢な四人の民は聖人として語り継がれ、王と並んで人々に語り継がれる存在となる。