戸惑い2-1
その夜、葵は眠りにつくことが出来ず窓辺に立ちつくしていた。
(明日・・・着物を返しに行ったら町の様子を見て来よう・・・斉条はよく思わないかもしれない。それでも私は・・・・)
水蓮のように苦しみを抱えながら助けを求めない人達がたくさんいる。表情から読み取れる"心"があることも知った。
「私はもっと色々なことを知って・・・皆の力になりたい」
そして、彼らの強く美しい輝きをこの目に焼き付けておきたいと願う葵は日の出を待って魔法陣をくぐった。
―――――・・・
葵が降り立った先は、燃えてしまった大和たちの町のすぐ傍だった。
焼け焦げた家具や着物・・・柱が墨のように真っ黒になって、あの惨事を物語っていた。
使いならされた職人たちの道具も・・・寂しそうに横倒しになっていた。
(ここには優しい思い出も夢もいっぱいあったはずなのに・・・・)
視線を落として先を進むと・・・
葵の目の前にひとつの影が立ちふさがった。
「・・・葵さま?」
顔をあげると紫色の美しい髪を結んだ・・・大和が驚いた顔をして葵を見つめていた。
「大和・・・」
互いの名を呼びあい、目が合うと大和は照れたように微笑んだ。
「よかった・・・もう会えないんじゃないかと・・・・」
葵を気遣うような眼差しの中に彼の優しさが見えた。
「昨日は・・・ごめんなさい。いきなりいなくなったりして・・・」
しょんぼり肩を落とす葵の顔を大和は覗き込んだ。
「葵様の立場を考えれば・・・このような小さな町で夜を過ごすなど、お付の方が許さないのもわかります・・・」
「い、いえ・・・
斉条は私の友人で・・・私のお願いで傍にいてくださっているというか・・・」
うまく表現の出来ない葵の様子を大和はじっと見つめていた。
「あの・・・大和?」
不安げに見つめる葵が大和の様子を伺う。
「友人・・・ですか・・・・」