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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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立場の違い-1

こぶしを握り締める大和の様子をみて戸惑う葵。





「すみません葵さま、なんでも・・・ありません・・・・」






斉条と呼ばれた男の態度や眼差しを見ている限り、葵のいう友人とはとても言い難いものがあった。



(葵様の優しさは皆に向けられているもの・・・きっと一個人へむけられるものではないんだ)





(人には踏み込んでいけない心の領域がある・・・きっといまの大和は・・・)



葵はこのとき、なるべく大和の心の声を聞かぬようにしていた。






「あの・・・大和、
あとで宿屋でお借りした着物をお返ししたいのですが・・・」






はっとして顔をあげる大和。






「失礼しました、俺が返しておきますから・・・」






手を差し出した大和の指と、着物の包みをだした葵の指先が触れた。葵にほのかな恋心を抱いてしまった大和はわかりやく反応を見せた。






「・・・・っ」






包みを受け取る前に手を引いてしまったため、葵と大和から離れたそれは足元へ落ちてしまった。





「宿屋に戻るまで私が持ちますね」






嫌な顔ひとつをせず、葵が包みを拾いあげる。






「必要なものがあれば言ってくださいね、町の復興に携わるのならば、きっと斉条も・・・」






そういうと葵は大和に笑顔を見せ、森のほうへと足を向けた。






「葵さま、森へ行くのならばご一緒いたします。お一人で歩かれてはいけません」






慌てて葵の後ろ姿を追うと、彼女を庇うように一歩先を大和は歩きはじめた。






「昨日の火事で建物が脆くなっているはずですから・・・」






「・・・ありがとうございます大和」






王である彼女が人間の彼より弱いはずはないが、それでも大和は葵を普通の人として扱いたかった。葵が普通の人間だったら・・・と大和自身強く望んでいたからだ。






しばらく歩き、森の入口まで来ると・・・






無言のまま葵が目を閉じた。体からあふれ出る命の光・・・。右手をかざし森をなでるような仕草をすると、まばゆい光は森へと流れて行った。黒く焼け焦げた樹木の根元から、無数の若葉が顔をだし、息のある木々は焼けた部分が剥がれ落ちどんどん再生してゆく。






目の前の神の業ともいえる光景を大和は呼吸するのも忘れ見入っていた・・・。




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