ほのかな恋心-1
葵の力で火が静まったあと、惨事に同情した隣町の人々が寝床や食事が用意してくれたため葵は大和たちとともに割り当てられた宿へと足を向けた。
はじめて夜を過ごす王宮以外の場所・・・。
葵は襖をあけ外を眺めていた。
(斉条、蒼牙・・・子供たちに心配をかけていないかしら・・・)そのとき、脳裏で尻尾をふる偉琉の可愛らしい姿が浮かび葵は微笑んだ。(もちろん、偉琉のことも忘れていないわ・・・)
葵の風になびく艶やかな髪がきらきらと輝いている。その少女が祈るように手を合わせると、その体から光があふれ波紋のように広がっていった。
廊下からその様子をみていた大和は葵のあまりの美しさに息をのんだ。
(葵さま・・・この世界の王・・・・あの方が・・・・・)
湯から上がったばかりの大和のその髪からは水が滴って足元へと落ちる。気配に気が付いた葵が振り返り、大和を見つめた。
「おかえりなさい、大和」
足元がはだけている葵は気にする素振りも見せず大和へと向き直った。
「は、はい・・・ただいま戻りました葵さま・・・・」
居心地が悪そうに葵の目の前へ腰を下ろす。
「・・・・・」
沈黙が続き、そっと大和が葵の顔を覗き見ると微笑んでいる葵と目が合ってしまった。
すると葵は何かに気が付いたように・・・
大和の首にかけている手ぬぐいで彼の髪を拭き始めた。
「濡れたままでは風邪をひいてしまいますよ?」
びくっと背を震わせて大和は目元を赤らめた。時折、葵の指先が大和の耳に触れ彼の感情を昂ぶらせた。
「傷は・・・跡になっていませんでしたか?」
葵の声のトーンが下がり、先程自分をかばって怪我を負った大和の脇腹へと視線を向ける。
「・・・大丈夫です、痛みもなく傷口さえ残っていませんでした・・・手をあてると葵さまのぬくもりが感じられて、俺はとても幸せな気持ちになれます」
「大げさです大和・・・」
笑いながら葵は脇腹に手をあてている大和の手に手を重ねた。
「本当にごめんなさい、私などのために・・・」
「・・・・・」
大和は己の手に手を重ねている葵の手を上からそっと握った・・・