愛を注ぐ者-1
穏やかな人柄、己の言葉を述べることのできる斉条に葵は・・・
「あの・・・斉条・・・
故郷を捨てろとは言えませんが・・・、あなたさえよければ、これからここで共に過ごしませんか?」
「・・・え・・・?」
あまりにも唐突な葵の言葉に斉条は動きを止めた。葵の意図はわからぬが、敬愛するこの王の傍にいられるなど・・・斉条には夢のような話だった。
「葵様・・・、本当に・・・?本当に私でよろしいのですか・・・・?」
小さく頷く葵は斉条を王宮の中へと案内した。お茶の用意をして落ち着いて話をすすめる。
「実は・・・
蒼牙のように親のいない子供を王宮で育てようと思っていて・・・」
「なるほど、孤児を・・・」
思い詰めたように手元をじっと見つめている葵の心が痛いほど伝わってくる。世界を見つめるその瞳には果てしない苦悩があるのだろう。
「・・・皆が笑って過ごせるように・・・空や大地が穏やかなだけでは・・・病や怪我が治るだけではいけない。愛のない世界はきっとつらいから・・・」
(・・・本当に葵様は美しい・・・
この方はそのお姿だけではなく、御心までもが美しい・・・おじい様、あなたが焦がれた王はこんなにも・・・)
斉条はためらうことなく葵の手に手を重ねた。穏やかな眼差しを向けて微笑む。
「葵様、私に二言はありません。
この命尽きるまで・・・心の限り尽くしましょう。何よりも・・・あなたのために・・・」
「・・・ありがとう、斉条・・・・」
初めて協力者を得た葵は数日後に行動を開始する。王宮の一角へ孤児院を設立し、斉条の信頼する数名の青年が葵の元へと集った。
彼らもまた、斉条のように心穏やかな優しい者たちばかりだった。幾日もかけて身寄りのない・・・行き倒れしている子供らを保護し、教養や遊び、満足な寝床に食事を与え・・・王宮には楽しげな笑いが毎日のように響いていた。
蒼牙も昼間は孤児院で子供達とともに過ごし、夜はたびたび葵の元を訪れては共に眠っていた。