THANK YOU!!-1
「・・・なんで・・」
驚き、その場に立ち尽くす瑞稀をよそに菜美は落ち着いた様子で目の前に居る恋敵に歩み寄る。
瑞稀は思わず一歩後ずさる。そんな反応を見た菜美は足を止め、口を開いた。
「・・本当は、アナタに言いたいことがあった」
「・・・・え?」
「でも、あの子に邪魔された」
あの子、というのはほかの誰でもない秋乃のことだろう。
そういえば菜美の言葉をちゃんと聞かずに言いがかりをつけたような気がする。
一気に罪悪感が押し寄せた瑞稀は小さく謝った。
菜美は気にしていないという風に首を振った。
「あの子はアナタが大切なんだろうから・・しょうがない。私は、アナタたちにあれだけ言われるような事をしたんだから、当然」
「・・・・・」
「勿論、謝らなきゃいけないことも分かってる。でも・・しない」
「・・・・」
瑞稀は何も言わず、ただ口を閉ざして菜美の言葉を待つ。
「拓斗君に振られたからじゃない。謝ったら、今までの私と別れなきゃいけなくなる。そしたら、拓斗君を好きだった自分とも別れなきゃならない。それだけはいや。」
「・・・・」
「拓斗君を好きだった。から、アナタたちを傷つけまくった。それが、この一年の私。恋に真剣だった私も、暴走した私も、全部背負っていくわ。」
初めて見る真剣な表情で伝えられるその言葉を瑞稀は驚きこそはしたものの、すぐに頬を緩ませた。
「分かった。その言葉、聞けて十分だよ」
「・・・何でにやけてんのよ」
「えー、なんでだろ?」
ますます緩む顔を隠すこともせず、瑞稀は嬉しそうににやけていた。
勿論、今までの話でニヤけるところなどどこにもないはず。
それを分かっている菜美は一回毒づいただけで、呆れた表情で溜息をつくだけだった。
「(・・こんな子に、負けたのね・・。ある意味ショックだわ・・でも、)」
今だニヤケが止まらない瑞稀を横目で見ながら、菜美は苦笑いを浮かべた。
自分のせいで足を大怪我したというのに責めることもせず、ただ親友と拓斗のことだけを思って怒った。
自分の気持ちを伝えたとき、嬉しそうに頬を緩ませて笑った。
そして、謝らない自分を・・許した。
「(・・拓斗君が、一途に好きな理由が分かるわ・・。)」