THANK YOU!!-3
瑞稀は、「ただいま・・」と小さく告げてすぐに、自分の部屋に入った。
そんな普通じゃない様子の瑞稀に、家族は心配して声をかけるが本人は大丈夫だと小さい声で返した。
ドアに身体を預けたまま、家族がリビングに戻ったのを感じ取った瑞稀はそのままズルズルと床に座り込んだ。
今の、瑞稀の顔は見せられない。
頬がこれでもかというほど真っ赤で、林檎が熟したかのような色に染まっていたから。
「・・・・嘘・・」
誰に見られているわけでもないが、腕で顔を隠した瑞稀は呟いた。
「・・私が・・・拓斗を、好き・・・?」
そう呟いたことで既に真っ赤な顔が、更に真っ赤になった。
このままだと、頭の先から火を噴くか煙を吹きそうだ。
もしくは、知恵熱を出すかもしれない。・・何も知恵を出したわけではないが。
「・・・・好き・・そっか・・好き・・」
少女マンガを読んだことは何回かあったが、自分の身に降りかかるとは思ってなかった瑞稀。勿論、異性をそんな感情の的で見たこともない。
だが、そんな瑞稀が知らず知らずの内に惚れていた。ほかの誰でもない、ずっと一緒に居てくれた拓斗に。
今まで、時折感じたモヤモヤや、トキメキ、心臓の高鳴り。
全てがそうだと結論づけていた事に、やっと気づいた。
「だから・・あんなに拓斗に撫でられて嬉しかったんだ・・」
「・・・でも」
嬉しさの中にある心を、どん底に突き落とすような事実。
『拓斗に、好きな人が居る』
菜美に直接言われた言葉。
あのあと、呆然とした瑞稀を気遣って何も言わずに自宅へ帰った菜美。
一人取り残された瑞稀の頭に廻っているのは、自分が拓斗が好きだということと、拓斗がほかの誰かを好きだということ。
「・・あーあ・・・どうせなら、もっと早く気付きたかったな・・」
もっと早く自分が拓斗への気持ちに気付いていれば、もしかしたら、告白出来たかもしれない。
だが、もう明日は卒業式。会うことも容易に出来なくなる。
もしかしたら、卒業してしばらく会わなかっただけで忘れられるかもしれない。
中学で、ほかの女子からモテて囲まれるかもしれない。
いや、拓斗が好きな人と恋人になっているかもしれない。
「・・・・・っ・・!」
そこまで考えついてしまった瑞稀は、両腕で顔を隠した。
その瞳から流れ落ちるモノを、隠すかのように。
「・・あー、あ・・何で・・知っちゃったんだろ・・。離れちゃうのに・・」
住んでいる家が反対方向で、中学が違う二人に会う時間はそうそう無くなるだろう。
今までみたいに、毎日会えなくなる。声が、聞けなくなる。
そのことが、どれだけ辛いか・・理解した瑞稀に、中学受験をするんじゃなかったという後悔と、このまま明日が来なければいいというやり場のない憤りの感情が生まれた。
しかし・・何をしていても、瑞稀の想いと裏腹に卒業式前日の夜が更けていった・・。