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『望郷ー魂の帰る場所』
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『望郷ー魂の帰る場所ー第一章……』-1

再び時代は現代に戻る。


梅雨、只中の六月の晴れた日に神崎真冬(まふゆ)は、お気に入りのいつもの場所にいた。街が一望できる小高い丘の上に……
そして、彼女の隣にはクラスメイトの少年が座っている。彼の名は倉持宏行……真冬の恋人である。

「ねぇ……宏行、知ってる?この地方に伝わる『千姫伝説』の事。」

ふいに真冬は、そんな事を言い出した。

「え?……ああ、知ってるよ。確か、姫と使用人の道ならぬ悲恋話だろ?あんまり興味ないな。」

本当に興味がないのだろう、宏行はそっけない返事をする。

「……そう……」

一陣の風が吹き抜けて、真冬の髪をかき乱す。片手でそっと掻き上げると彼女は宏行の方を振り返った。

「あたしね……思うんだ。死ぬ事でしか遂げられなかった恋って、どんなんだろうって……」

真冬に見つめられ、宏行は肩をすくめる。

「想像もつかないよ。けど、どうしたんだ?真冬。急に……」

不思議そうに宏行が尋ねると、彼女は小さく笑った。真冬はスッと立ち上がり、空を見上げて目を閉じる。

「ううん、なんでもないの……。それにしてもいい風ね……」

……チリン……

微かな鈴の音が風に紛れて聞こえた。

「宏行、なんか聞こえなかった?」
「いや、何も……」

……チリン……

「やっぱり聞こえるわ……あっちから。」

彼女が指差す先……杉の大木の方から、その音は聞こえる。真冬と宏行が歩いて行くと、そこには小さな祠があった。

「ここから聞こえたのかしら?」
「何が聞こえたんだ?俺には何も……。でも、こんなところに祠なんてあったんだ、知らなかったよ。」

それは小さくではあったが、悠久の歳月を思わせる雰囲気をかもしだしていた。

「鈴の音よ……」

そう言って、真冬は携帯を取り出す。リンッと、ストラップの先に付いた小さな鈴が可愛らしい音を奏でた。

「これと同じ様な音がしたの……。この中にあるのかしら?」

恐々と真冬は格子の中を覗き込む。生い茂る木々に阻まれて祠の中は暗く、真冬がもっと中を覗こうと格子に手を掛けた時……

パキンッ

乾いた音とともに格子が折れてしまった。前のめりになった真冬の手は、そのまま七五三縄(しめなわ)までも引き千切ってしまう。

「きゃあ!」

思わず真冬は悲鳴をあげた。しかしそれは体勢を崩した事にではなく、祠の中から何か埃の様なモノが顔に向かって吹き付けてきたからだった。
反射的に目をつぶり、顔の前で二、三度手を振って目を開けると、既に埃はかき消えていた。

「真冬、お、お前……」

絶句した様に宏行が呟き、我に返った真冬が視線の先を追うと、その手にはしっかりと七五三縄が握られていた。

「どどど、どうしよう宏行……あたし壊しちゃった。」
「と、とにかく落ち着け……」

そうは言ってみたものの、宏行までもが慌てふためいている。それでも何とか七五三縄を結び直し、二人は逃げる様にその場を後にした。


梅雨も終わりに近付き、日に日に日差しはきつくなっていく。そんなある日、授業を終えて帰り仕度をしている宏行の側に一人のクラスメイトがやってきた。

「なぁ宏行。お前、最近流れてる変な噂知ってっか?」
「なんだ彰人か……。変な噂って?」

御山彰人(みやまあきと)は前の席の椅子を引き、後ろ向きに座ると背もたれに両肘をついて宏行と向かい合う。

「俺も詳しくは知らねえんだけど、夜に変な女が現れて質問するんだってさ。んで、答えられないと襲われるらしいぜ……」
「なんだよそれ?……嘘くせえな。」

馬鹿馬鹿しい……口には出さなくとも宏行の目は、そう物語っていた。そんな宏行の台詞に彰人は頷き返し、肩をすくめる。

「それがさ、そうでもないらしいぜ。ウチの学校でも何人かやられてるみたいなんだ。もっとも、女にやられたなんて恥ずかしくて隠してるらしいけどな。」

多少、噂は真実味を帯びたものの、信用する気に到底なれなかった。溜息をついて宏行は立ち上がる。

「まあ、一応注意しておくよ彰人。真冬、帰ろうぜ。」

そう宏行が声をかけたが、何故か真冬は無反応だった。

「真冬?おいっ真冬!」

宏行の大きな声にビクンッと体を震わせて、真冬は慌てた様に振り返る。

「え?何?宏行……」
「何って……まぁいいや、帰ろうぜ。」
「…うん…」

そして二人は連れだって学校を後にした。


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