第12話 ギフト〜永遠の宝物〜-1
カラン・・・コロン・・・・・・
店のドアベルが心地よく響くと、グレーのスーツに身を包んだ男が入ってきた。
「あら・・・どうしたの!?。川端さん、随分とお久しぶりね」
その男は川端で、玲子の店を尋ねてきた。
「ふふ・・・急にママの顔が見たくなってね」
「まあ・・・随分と嬉しい事をおっしゃりますわね。それじゃあ、せかっくですから・・・奥のテーブル席にどうぞ・・・・・・」
玲子は、二人の店の若い女と数名のカウンター席の客を相手にしていたが、川端を奥のテーブル席に案内する為にカウンターを離れた.。
「とりあえず水割りで良いかしら?」
「ああ・・・ママに任せるよ」
川端はテーブル席に付くと、カウンターに戻る玲子の後ろ姿を眺めていた。
この時の玲子の出で立ちは、上は黒のキャミソールに同色のジャケットを羽織り、下は同じく黒の短めのタイトスカートに、同色のパンティーストッキングとハイヒールを履いた、相変わらずの黒いカラスだった。
ちなみに、二人の店の若い女も、それぞれピンクと水色の同じような出で立ちをしていた。
「はい・・・おまたせしました」
玲子がテーブル席に戻ると、水割りと生ハムなどが適当に添えられた皿を載せたお盆をテーブルの上に置いて、川端の隣に座った。
「おやおや・・・今日のママは積極的だね。もしかして、今夜とか期待して良いのかな?・・・・・・ふふ」
「何をおっしゃるの・・・いつもと変わりありませんわ」
「そうかい?・・・だって俺が一人で尋ねる時は、こんな席では相手をしてくれないだろう?。それに・・・隣に座るくらいだから、てっきり誘ってるかと思ってね」
川端はさりげなく、隣に脚を組んで座る玲子の黒い誘惑を摩っていた。
「もう・・・それは違いますからね。ですから・・・誤解のない様に・・・・・・」
玲子は、その手つきを静かに払い除けるが、それでも嫌悪感は無く、川端との久々の戯れに懐かしさを抱かせていた。
「なんだよ・・・陽一には可愛がってもらったくせに、俺には指一本も触れさせねえのかよ」
「あっ・・・陽一さんは、どうなされたの?。あれから、私とは連絡すら・・・・・・」
「ふふ・・・振られたのか?」
「ち・・・違うのよ。それに、私だって本気にしてた分けじゃないですからね。それでも、何だか気になるのよね・・・一晩だけのお付き合いでも、陽一さんは後悔してるのかと思ってね。結局、私から逃げるような感じで、臭い物に蓋された感じで複雑なのよ。あっ・・・それとも・・・私を踏み台にして、若い恋人でも作ったのかしら?」
陽一と肌を交わしてから、二ヶ月は過ぎようとしていた。
「だから、今時の若い奴なんて何を考えてるか分からないんだから、俺の様な中年オヤジを相手にしてる方が楽だって・・・・・・。何なら、ママさえよければ毎日でも通ってあげるよ・・・陽一の事なんて忘れさせるくらい、たっぷりと可愛がってあげるからさ・・・・・・ふふ」
「もう・・・川端さんは一人だと、すぐにそっちなんだから・・・・・・。そうだ・・・どうして川端さんまで、お店に足を運んで下さらなくなったのよ?。だから・・・その時にでも陽一さんに、お会いできると思って・・・・・・」
川端は、水割りを口に含もうとしたが急に手が止まり、それをテーブルの上に置いた。
その表情は、横柄だった態度と打って変わって、真剣みに溢れていた。
「ママには、本当に感謝してる・・・・・・」
「急にどうなされたの?」
改まった態度の川端に、不可解な表情で玲子は尋ねた。
「あれから陽一は変わったよ・・・本当に必死になって駆けずり回り、仕事に励んでるよ。それに・・・以前なら俺に怒られると死んだ魚のような目をしてたのに、それがいつまでも光り輝いていやがる・・・・・・。本当にママのおかげだよ・・・ありがとうな」
「ちょ・・ちょっとお顔を上げてくださいな。私もそんな・・・困ります」
膝に手を置いて頭を下げる川端に対して、玲子は宥める様に手を差し伸べた。
「それに・・・私のおかげじゃなくて、陽一さんが一人で導きだした事よ。ただそれに・・・私が少しだけ、おせっかいしただけ・・・・・・」
「ふふ・・・そのママのおせっかいのおかげで、取引先とも上手くいったよ。あれから、接待の方も、自分から進んで積極的にこなす様になったからな・・・・・・」
「それじゃあ、お仕事の方は順調なのね?」
「ああ・・・もちろん。商談の方も成立して、ようやく肩の荷も下りたから、あいつも今頃ホッとしてるんじゃないかな」
「それなら良かった。陽一さん、きちんとツケの方もお支払いしてくれたのね」
「ツケって・・・あれから陽一は一人でも飲みに来るのか?。陽一の分は、いつも俺が一緒に払ってるだろ?」
「あっ・・・ち・・違うの・・・こっちの話だから・・・・・・。それよりも、せっかくお仕事の方上手くいったのに、どうして陽一さんもお連れして下さらなかったの?。どうせなら、三人でお祝いすれば良かったのに・・・・・・」
玲子は、不機嫌そうに脹れっ面を見せた。
その姿が、川端に可笑しく映り、ようやく表情も和らいで、水割りに口を付けた。
「ふふ・・・ママに会うと、甘えそうで怖いんだって・・・・・・。あれから、俺も何度か誘ったんだけど・・・商談が成立するまでは、我慢するんだってきかなかったんだ。だから・・・そんな陽一を見ていると、何だか俺まで気が引けちゃってな。それで、店に来るのも控えてたんだ」