第11話 最後の晩餐-2
「え〜と・・・確か去年29歳の誕生日を祝ってあげたから、今年で30になるわね・・・・・。ふふ・・・私と似ていてね・・・若い内に結婚したと思ったら、すぐに別れちゃったわ。それに・・・小学生になったばかりの男の子も居るんだけど、あの子が全部一人で面倒を見て育てきたのよ。本当・・・亭主まで私のとそっくりで、別れたらそのままポイッとゴミを捨てる様に消えていったわ。もう・・・つくづく似た者同士の親子ね・・・・・ふふ」
陽一は、黙って玲子の身の上話を聞いていたが、明らかにその話の内容からして、昨晩、自分の胸元で何度も至福の表情を浮かべて乱れた女は、母親とも変わらぬ年齢だった事を改めて実感していた。
「やだ・・・私ったらつい余計なことまで・・・・・・。まさか、孫も居るお婆さんが初めての相手だったなんて・・・陽一さんの気に障ったでしょう?。せっかく、素敵な一夜を共にしたのに、水を差したみたいで本当にごめんなさい」
「別にママが謝る必要は無いです・・・僕は歳の差なんて気にしてません。それに・・・僕が、ママで初めてを迎えたのは、それだけママが魅力的だったからですよ。本当・・・ママの幸せしそうな顔は一生忘れられません」
「ちょっと・・・駄目よ・・・また思い出しちゃうわ」
玲子は再び居心地が悪くなり、腰を小刻みにくねらせながら潤いを誤魔化した。
「あっ・・・それより、今日の朝から何も食べて無いからお腹空いたでしょう?。あり合わせの物しか無かったから、カレーしか作れなかったけど、良かったら一緒に食べましょう」
「そう言えば良い匂いがしますね。僕、小さい頃からカレーが好きだったんです。いつも母さんが作ってくれたから・・・・・・」
「それじゃあ、おふくろの味なんだ。何だか私のカレー何かと比べられちゃったら、ちょっと自信無いかも・・・・・・」
「ふふ・・・それなら大丈夫です。大体カレーだったら、どれでも美味しく食べれますから・・・・・・・」
「ちょっと・・・それってフォローになてないわよ」
「あっ・・・これは失礼しました」
二人は顔を見合わせると、思わず笑っていた。
お互いの関係が身体だけでなく、心も打ち解けて近づいていた。
もう、恋人同士にさえ見えていた。
「それじゃあ、着替えたら・・・キッチンに用意してありますから、食べに来て下さいな」
「ちょっと・・・ちょっと待って下さいママ・・・・・・」
陽一は、ベッドから立ち上がる玲子の腕をつかんで引き止めていた。
「どうしたの?・・・陽一さん」
「この事なんですけど・・・・・・」
「この事って?」
「あの・・・その・・・僕とママが一晩一緒に過ごした事を・・・部長には・・・・・・」
「ふふ・・・メールしておいたわよ」
「えっ!?・・・メ・・メールって、どういう事ですか!?」
玲子の思い掛けない言葉に、陽一は呆然とただ驚くしかなかった。
「だから・・・川端さんにメールして、陽一さんとの事を教えてあげたの・・・・・・」
「ちょっと・・・キツイ冗談はやめて下さいよ」
「冗談じゃないわよ・・・ほら?」
玲子は、鏡台の上から携帯電話を取り出すと、それを開いて陽一に見せた。
『・・・・・・昨日は、陽一さんと素敵な一夜を過ごさせていただきました・・・・・・』
陽一は、内容と送信先を確認すると、血の気が引くように顔が青ざめていた。
冗談にしては、手の込んだ仕掛けであり、現実として受け止めるしかなかった。
「そんな・・・どうして部長何かに!?。このままじゃツケを払うどころか・・・会社にだって行けませんよ!」
「どうしてなの?・・・だって陽一さんは何も悪い事なんてしてないじゃないの?。それじゃあ・・・私と寝る事が会社に背くの?」
「いや・・・そうじゃなくて・・・部長はママの事を・・・・・・」
「だから・・・その川端さんにお願いされた事なのよ」
「えっ!?・・・川端さんにお願いされたって・・・ぶ・・部長がどう言う事!?」
混乱する陽一を前に、一から丁寧に説明しようと、玲子は再びベッドに座った。
「陽一さんは酔っていたから何も分からないと思うけど、私が川端さんを見送ろうと表に出た時に頼まれたのよ・・・陽一さんを男にしてくれってね」
「僕を・・・男に?」