ひと夏の恋の行方-3
「ナツネ、安心せえっ!」
「えっ?」
「ほら、ナツくんの友だちで黒い服着てた子、覚えてるやろ?」
「さあ?」
「あんた、いい加減にしいや!こっちはあんたのこと思て一生懸命やのに!」
落ち込んだ時に、このミヤちんの反応はありがたい。
「うそうそ、え〜と黒い服の子ね。居たよ、ちゃんと覚えてるよ、でもどんな顔だっけ?」
「服の印象だけかいな…。その黒い服の和泉くんだけどね」
「その和泉くんの黒い服がどうしたの?」
「違う!黒い服の和泉くんっ!もう、ふざけんときや、今から大事なこと言うから」
「ごめん、和泉くんが?」
「その和泉くんにあたしの家の電話番号聞かれたんや」
「えっ…」
「だ・か・ら、和泉くんに『旅行から帰ったら、また会いたい』って言われたから教えたんや」
「え―――――!いつの間に?」
二つのことでビックリした。一旦切れたナツくんとの縁がつながっていたことと、ミヤちんの浮いた話。
え―――!ミヤちんの浮いた話―――!
すまんミヤちん、何回もビックリしてしまう。え―――!
「昨日あんたとナツくんが行った後やけどな、あたしらはそのままホテルに戻ろうとしたんや。そしたら和泉くんが後ろから追いかけて来やったんや。あたしの事を誘うためにな。ホンであたしも和泉くんと一緒にお茶したわけやなこれが♪」
「え――――!フェリーの子よりあんたを選んだん?」
「うるさいわ!当たり前やないの!」
「そ、そうなん」
「和泉くんから連絡があったら、あたしがナツくんの連絡先を聞いたげる」
「わ〜ん、ミヤち〜ん、愛してる〜」
あたしのテンションは一気に上がった。
「あたしに任せなさ〜い」
ミヤちんは自信たっぷりに言った。しかし、ミヤちんのにこやかな顔を見ている内に、だんだん不安になってきた。そう言えばこの娘って、いつも根拠の無い自信に満ち溢れているのよね。
「ちょっと待って。ミヤちんは和泉くんの連絡先聞かへんかったん?」
「聞いてないよ。なんで?普通は女の子からは聞かへんもんちゃう?」
「え―――――!普通って誰がきめたんよ?もしよ、もしもよ、和泉くんがトラベルハイから目が覚めて、電話してこなかったらアウトだよ」
アイスクリームの縁より危ういかも…
「トラベルハイってなんなん!失礼な子やな!」
「それにもしもよ、和泉くんが電話番号のメモ無くしたら?もしも、和泉くんが車に跳ねられて死んじゃったら?」
「和泉くんを勝手に殺すな!」
「連絡来るかな〜」
「来るよ。こんないい女を放っとくもんか」
「いい女ってミヤちんのこと?」
「ピンポ〜ン♪」
「う〜ん、連絡来るかな〜〜〜」
「ひつこい!」
「う〜ん…」
「考え込むな―!」
「う〜ん…」
ふと、見上げればそこにはさっきより明るい満天の星空が広がっていた。
さっきは気付かなかった星の王子さまが、今は見つかるような気がする。
夜空に輝く星の王子さまにお願いいたします
和泉くんのトラベルハイが覚めませんように
和泉くんがミヤちんに連絡するまで死にませんように
そして、どうかナツくんと会えますように
満天の夜空に幾千幾万と輝く星々達。今その一つが強く輝いた。
それは少し昔の物語…