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私の夏
【青春 恋愛小説】

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失恋-1

 唇を重ねたまま時は静かに流れた。5秒、10秒、どれくらい時間が経ったか解らない。

 やがて、ナツくんは唇を静かに外し、今度はあたしの存在を確かめるように強く抱きしめてきた。

 それが切欠だった。

 出会って間もない人とこんなことをするなんて!普段から不純だと言っていた今までのあたしには考えられないことだった。

 魔法が解けたみたいに今更ながらに驚いたあたしは、性急に事を進めようとした彼に対して憤りの感情が芽生えた。

 その感情は、あたし自身の無防備さをさておいた、単に『あたしは不純ではなく相手が強引だった』という、自身に対する正当性を示すための反動であり、この後に起こった事はそんなあたしの子供っぽいずるさが招いたことだった。

 それの善し悪しを考える余裕もなく、あたしは芽生えた感情のままにナツくんから逃れようとして体を突っぱねた。

 だけどナツくんの体はビクともせず、反対に不安定になったあたしは少しよろけてしまった。ナツくんはそんなあたしを助けようとして慌てて手を出したんだけど、間が悪い事にその手があたしのお尻をギュッと掴んでしまった。

「イヤッ!」

 驚いたあたしは叫んだ。

「あっ、ごめん」

 慌てたあたしはナツくんに背を向け逃れようとして、さらに態勢を崩してしまった。

 間が悪い事はさらに続いた。今度もあたしを守ろうとしたナツくんの手があたしの胸の位置にきてしまい、しっかりと両方の手のひらで胸を掴まれてしまったのだ。

 一瞬にして時が止まり、一瞬にして動きだす。

「うわっ、ごめっ」

 ナツくんの慌てた声と胸に感じるナツくんの手のひらの体温で、あたしの頭は一気に血が上ってしまった。

 ワケが解らなくなったあたしは、さっき芽生えた感情のみが膨れ上がり、

「ばかっ!大っきらい!」

 あたしは叫び、咄嗟にナツくんのほっぺたを思いっきり引っ叩いていた。

 ナツくんがあたしの胸を触ったショックと、あたしに拒絶されたショックで呆けている隙に、あたしはもう一度「大きらい!もうあたしに付きまとわないで!」と言ってその場から駆け出していた。

 あたしの方も、ファーストキスのショック、胸を触られたショック、あたし自身がナツくんを拒絶したショック、そしてナツくんの驚いた顔が離れなくて、頭の中がグチャグチャだった。

 今は少しでもショックの原因になったナツくんから離れたかった。公園から少し離れたところで急激に胸が苦しくなったあたしは、走るスピードを落とした。どうやらまともに呼吸すらも出来てなかったみたい。

 それでもしばらくは立ち止まることは出来ず、知らない街をトボトボと歩き続けた。ワケも解らず涙が溢れてくる。やがてあたしの心は歩くことも拒絶するほど気力が萎えてしまった。

 足を止めた場所はさっき2人で入った店の前だった。

 また涙が溢れてくる。人目を避けるため壁に向かって深呼吸をしながら息は整えたけど、涙は全然止まってくれなかった。

 この涙は単にファーストキスのショックに寄るものなのか、自身の無防備さを恥じることに寄るのか、胸を触られた事に寄るものなのか、それとも自身を正当化するためにナツくんを拒絶した自分のずるさを恥じることに寄るものなのか、拒絶の言葉を聞いたナツくんの悲しそうな顔を見たからなのか、自分でもよく解らなかった。

 そして今更ながらにトモちゃんの言葉を思い出した。

『本当はどうしたいんか自分の心に聞くんやで』

 心の声…

 頭が真っ白になったあたしは、最後の最後に心に聞く余裕が無かった…

 しばらくその場で立ちつくし、心が落ち着くのを待ったが中々落ち着いてはくれなかった。

 それでも無理やり落ち着かせたあたしの心は、衝動的に逃げ出したことを後悔し始めていた。

 あたしが慌てなければこんなことにはならなっかった…

 あたしの頭の中に、ナツくんの驚いた表情と悲しそうな表情が交互に浮かんでくる。その表情から察するに、彼には変な気持ちが無く、ただ、明日から会えないことから来る寂しさを抑えきれずに、衝動的にキスをしたんじゃないかということだった。多分そうだろう。子供なあたしはそんなことも解らず、彼を拒絶し純粋な彼の心を傷つけてしまった。

 あたしは涙を拭いてフウッ!と一息吐いた。そして重い足を引きずりながら歩きだした。もう一度ナツくんと向き合うために、あたしはさっきの公園へと戻る事にした。

 予想はしてたけど、ナツくんの姿が公園に無かったのはショックだった。あたしを探して街中を走り回っているのか、ショックの余りホテルに帰ったのか、今のあたしには知る術は無かった。



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