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私の夏
【青春 恋愛小説】

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どんな景色?-2

 ビーチチェアに座ったまま正面の海から時計回りにゆっくりと顔をめぐらせ目線を真後ろに向ける。痛い!首の回転角の限界を超えると今度は反時計に顔をゆっくりとめぐらせる。痛い!

 それを何度も繰り返した。ゆっくりゆっくりと。

「ナッちゃん、あんた何してんの?首とれるで」

 突然、後ろからトモちゃんの声がした。

 ドキッ!いつの間に帰って来たの?

「え、え〜と、折角やから沖縄の景色を観てたんや」

「はあ?景色はそんな風に観るもんとちゃうわ。景色はじ〜っと観るもんやで、知ってた?」

「うん…」

「それにあんたあたしと目が合ったのに全然気付けへんかったな」

 トモちゃんが気味の悪いモノを見る様な目であたしを見る。

「景色を観るのに懸命やったから、スルーしてしもてん」

「何アホなこと言うてんの。あんた大丈夫か?」

 その時、あたし達の会話を聞いていたユーコの顔がパッと輝いた。

「そうか、解った!ナッちゃんの観ようとした景色は、サングラス掛けた景色やろ?」

「なんや、そうやったんか」

 トモちゃんの顔が急に優しげになった。

「なんやかんや言うても、ナツくんが気になるんやな」

「うーん、ホンマによう解らへんねん。あんなストレートに来られててんで。やっぱり気になるやんか。もう一度会って自分でも気持を確かめたくなってん」

「へー、チョットは素直になったやんか」

「で、気になる星の王子は見つかったんか?」

 ユーコが聞いた。

「ううん、居らへん…」

 海へ来たばかりのテンションはどこかへ行ってしまった。

「そうかあ…。でも来たばっかりやん。ここで会われへんかっても他で会えるって」

「他って?」

「ほら、有名な観光地あるやんか。ヤツらも観光くらいするやろ。姫ゆりの塔とか玉泉洞とかハブ園とか国際通りとか公設市場とか琉球ガラスの工房とか」

 ユーコは有名な観光地をつらつら並べた。

「観光地がそんな一杯有ったら、偶然出会う確立なんて万が一にも無いかも…」

「あっ、そうか!ごめんごめん。でもまだ午前中やで、それに今日会われへんかっても明日が有るやん」

「そうやんな!来たばかりやもんな!万が一も一杯あるやんな」

 あたしは少し希望を持った。

「ユーコ、アカンわ。あたしら明日から慶良間の離島に行くねんで。あの子らもそこに行くかどうかわからんよ」

 トモちゃんは折角芽生えた希望を打ち砕いた。

「あっ!そうやった!」

 あと半日の内に会わなければ二度と会う機会が無くなるかも…

 はあぁ―。万が一はやっぱり万が一か…

 一度ナツくんの事を思えば、堰を切ったようにナツくんの事ばかりを考えてしまう。そのナツくんともう会えないかもしれないと思うとドンドン寂しくなってきて、さっきまでステキに思えていた光景も、なんだか色あせて観えてきた。

 あたし達はそれから午前中は海辺で過ごし、午後から観光地を探索した。

 色あせたと言っても姫ゆりの塔では涙し、玉泉洞で心地よく涼み、ハブ園ではキャーキャー騒いだ。でもどこに行ってもナツくんと出会うことは無いまま時間が過ぎ、南国の強烈な日差しは徐々に弱まってきた。

 万が一は、万に一つだからこそ万が一。

 夕食は国際通りで採ることにした。

 店はツアーで貰った小冊子に書いてあった中から選ぶことにした。ユーコは居酒屋風の店がいいと言い、ミヤちんはイタリアンが食べたいと言った。トモちゃんは「みんなに任す」と言ったがこれは毎度のこと。あたしは沖縄名産のブルーシールアイスクリームの無料クーポン券が付いていたステーキハウスを推した。

 協議の結果、あたしの推したステーキハウスがブルーシールアイスクリームの分だけポイントが高く評価され、今日の夕食はステーキハウスに決まった。

 国際通りをぶらぶら探索しながら歩くと、やがて冊子に書かれたステーキハウスに着いた。

 小冊子では解らなかったがその店は意外と大きく、中に入ると国籍不明の活気が満ち溢れ、陽気な店員の声が薄暗い店内に心地よく響いていた。

 しばらく待つと、係の人があたし達を愛想よく出迎えてくれた。迷路の様な店内を係の人に続いてに奥へと進む。

 しばらく行くと係の人は空いている席の横で立ち止り「こちらです」と手で示してくれた。でも、この時の私の目は全く違うところに釘づけになっていた。私の鼓動はドキドキと大きく脈打ち、耳から聞こえてくる程だった。

 万が一が有った!


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