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私の夏
【青春 恋愛小説】

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星空-1

 ドキドキと鼓動が脈打つ状態で、優に一分ほどフリーズ状態になった気がする。実際は10秒くらいかな?

 でもず〜っとこんなことをしていても仕方がないので、あたしは気を取り直してナツさんに声を掛けた。

「な、名前と誕生日が同じって凄い偶然ですね。あたしの名前って珍しいと思ってたのに」

「ホンマやな。まさか同じ名前が女の子やったなんて。オレがナッちゃんの事が気になったのもこのせいかも…」

 それは違うだろ…

「なんか嬉しいなあ、オレまだドキドキしてるわ」

「ホント、ビックリですね」

「まあ、こんなとこに居ってドキドキ言うててもしゃーない、あそこ開いてるから座ろか」

 ナツさんが指差したところは、午前中にナツさんに声を掛けられてあたしがお茶を吹きだしたベンチだった。イルカの高揚感と、うろたえた恥ずかしさが一気に甦ってきたけど、それらはひとまず置いといて素直に頷いた。

 あたし達はベンチに座り、満天の夜空を見上げた。

「うわ―――!」

 凄い!そこには感嘆の声しか出ない程に、空一面に明るい星達が力強く光り、吸い込まれるような衝撃的な光景が広がっていた。

 ナツさんなんかしばらくポカンと口を開けたまま声も出なかったのよね。そして、しばらくしてから、ポツリと言った。

「凄いなあ、若しかしたらあの中やったらホンマに居るかもしれへんなあ」

「何がです?」

「あっ、ごめん独り言」

「いえ」

 ナツさんは再び黙って星を見上げていたが、またしばらくしてから、ポツリと言った。

「なあ、ナッちゃんてヘビに咬まれた王子の話知ってる?」

「あっ!それって星の王子さまですね。さっきの独り言って、蛇に咬まれて自分の星に帰った王子のことを言ってたんですか」

 地球に舞い降りた星の王子が、自分の星に帰る方法はただ一つ。地球に来た1年前と星の配列が全く同じ時に蛇に咬まれること。王子が砂漠で出会った遭難中のパイロットに別れ際に伝えたのは、星に帰った自分に会いたくなれば夜空を見上げて欲しい。夜空に光る星の中からほほ笑んでいるから。場所は確かサハラ砂漠だっけ?

「知ってたん?嬉しいなあ」

「ええ、ナツさん昨日読んでましたよね。確か家にも本が有ったはずです」

「夢がある話やんなあ」

 そう言いながらナツさんは、サングラス越しに再び夜空を見上げた。

 へー、男の人でもこんなことを考えるんだあ。そもそも普通そんな本を男の人が読むの?あたしはそんなナツさんの横顔をしげしげと見つめながら思った。

 でもこの人って、サングラスを掛けたままで星がちゃんと見えてるのかな?

「聞いていいですか?」

「何を?」

「なんでず〜っとサングラスを掛けてるんですか?星見えます?」

「う〜ん、ちょっとだけ見辛いかな。しゃーけど、これ人前で外されへんねん…」

「どうしてですか?」

「う〜ん、ちょっと言い辛いんや」

「言い辛いって、あたしはナツさんのお誘いをOKしたんですから、それくらい教えてくださいよ」

「え―!ちょっと堪忍して欲しい」

「いいですよ、それならあたしは部屋に帰りますから」

「あ―、待って待って、せっかく来てくれたのに帰らんといて」

「それなら教えてください」

「笑わんといてな、実は殴られて目の周りが青たんになってんねん」

 へっ?青たん―――?何それ?それも殴られて?この人ってどういう人なの?

「ちょっと見せて!」

 あたしはそう言って、素早くナツさんのサングラスをはぎ取った。

「わっ!やめ!」

 驚いたナツさんの生の目と向かい合った。

 ドキッ!ぱっちりお目目の端正な顔立ちじゃないの!でも左目の周りに見事な青たんが…

「ぶっ!ホントだ!なにこれ、マンガみたいになってる〜!あははははは―」

 あたしはそれを隠そうとして寝ながらもサングラスを外さなかったこの人の行為が可愛くて可笑しくて、久しぶりに声を上げて笑ってしまったのだ。

「う〜〜〜、笑わんといてっていうたのに、メチャカッコ悪いやん」

「あははは、でもケンカなんてダメですよ。一体誰に殴られたんですか?一緒に来てるお友だち?」

「違う違う、オヤジに殴られたんや」

「えっ、お父さんに?そんな幾ら自分の子供だからって大の大人を殴るなんて。ナツさん一体どんな親不孝したんですか?」

「う〜ん、言わなアカン?」

「………。」 

「わかったわかった、今言うからそんなに睨まんといてえやあ。あっ、帰ったらアカンで」

「はい、素直でよろしい」

 人を目で責めるのってなんだか面白いわね。



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