第10話 二人の始発-3
陽一は、再び帰り支度を始めようと立ち上がったが、またもや玲子に手を引き止められていた。
「どうしたんですかママ?・・・本当にそろそろ帰らないと始発が出ちゃいますよ」
「ねえ・・・私のお店・・・ツケがきくの知ってた?」
「あっ?・・・そうでしたね、部長が帰ってからこんな遅くまでに、お世話になりましたからね。大丈夫です・・・僕も持ち合わせはありますから、すぐに払います。いくらになります?」
「もう・・・違うのよ。御褒美のツケよ・・・・・」
川端が帰ってからの、陽一の分だけの支払いだと思っていた。
陽一は、それを支払おうと、ハンガーに掛けた背広の内ポケットに手を伸ばしたが、これも玲子に引き止められていた。
「御褒美のツケ?・・・・・・」
玲子の言葉の意味が分からず、陽一はただ怪訝そうな表情を浮かべるしかなかった。
「そうよ・・・ツケで御褒美の前借をしてあげるの・・・・・・。ねえ・・・触ってみてよ。私をこんなにして・・・このまま帰れると思ってるの?。はあ・・・はあ・・・駄目・・・私もう我慢できないの・・・はあ・・・はあ・・・・・・」
いつまでも気付かないでいる陽一の鈍さにしびれを切らした玲子は、大胆にも陽一の手を握りしめて、自分のショーツの中に誘った。
案内するように一緒にまさぐると、陽一の手つきには玲子の湿った感触が伝っていた。
「ほ・・本当に・・・良いんですか?」
「もちろんよ。その代わり・・・御褒美のツケは必ず支払ってもらうわ・・・・・・」
「あっ?・・・マ・・ママ・・・・・・」
玲子は陽一の問い掛けに、言葉と一緒にボクサーパンツの膨らみを摩りながら答えた。
「分かりました・・・このツケは必ず支払います」
「陽一さん・・・・・・」
陽一は、玲子をしばらく見つめると、そっと唇を重ねた。
それに我慢できずに、玲子は陽一の頬に手を当てながら唇をこじ開けて、激しく舌を絡ませていた。
クチュ・・・クチュ・・・・・・
二人の交わす唾液の音だけが、室内を支配していた。
この時、すでにカーテンの隙からは日が差しており、その木漏れ日だけが愛し合う二人を美しく演出していた。
玲子の店の辺りを見渡せば、新聞配達や朝のジョギングをする者のもおり、朝を思わせる光景にもなっていた。
その近くの駅では、始発を待つ人だかりも出来ていた。
「あっ・・・あっ・・・陽一さん・・・陽一さん・・・・・・」
しばらくすると、パンティーストッキングとショーツを残したままの片脚が、高々と天井に伸びていた。
チャイナドレスは乱れて、仰向けでしがみ付きながら、陽一を受け入れてる玲子の姿だった。
その陽一の物が、玲子の中で往復する度に、悦びの音色は鳴り響いていた。
それに誘われるかのように、陽一の腰つきは激しくなっていた。
「はあ・・・はあ・・・ママ・・・そろそろ・・・そろそろ良いですか?・・・はあ・・・はあ・・・・・・」
「あっ・・・あっ・・・良いのよ・・・はあ・・・はあ・・・遠慮しないで・・・・一緒に迎えましょう・・・はあ・・・はあ・・・・・」
二人は、お互いの頂点を確かめるように、言葉で確認した。
それに促された様に、陽一は最後を振り絞った。
「はあ・・・はあ・・・ママ!・・・ママ!・・・ママ!」
「あっ!・・・あっ!・・・陽一さん!・・・陽一さ〜ん!!!!!!」
・・・・・・プオオ〜ン!・・・・・・
「ママ〜!!!!!!・・・・・・」
玲子は絶叫をしながら至福を感じると、陽一は部屋に漏れる始発の警笛と一緒に、玲子の中で初めてを迎えていた。
その脈打つ物を玲子自身は感じて、安堵の表情で陽一をしばらく抱きしめていた。
陽一もまた、包み込む玲子自身の生温かさに、本来の優しさを肌で感じていた。
それぞれの思いを確かめるように、二人は枯れ果てるまで朝を過ごすのだった。