第7話 陰と陽一-2
陽一が、手つきをゆっくりと握りしめると、玲子から微かな吐息が漏れた。
その吐息に誘われるかのように、何度も繰り返した。
・・・・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・・
そのラッパは反応が良く、握りしめる度に玲子を鳴らした。
しかし、微かに漏れるのは空気の音だけだった。
陽一の手つきは、高々と玲子を鳴らそうと激しくなった。
それに堪えるかのように、玲子は目を強く瞑った。
・・・・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・・
「あっ・・・・・」
玲子は鳴った・・・・・・
・・・・・・キャッ!・・・ちょっと何になさるのよ!・・・・・・
「もう・・・川端さんたら。ここは御触りとか無いんですから!。ただのスナックですからね・・・もう!」
「何だよママ、随分とケチケチしてるじゃねえか。おっぱいくらい良いだろう?・・・減るわけでも、あるまいし・・・・・・」
スナックのテーブル席で、黒いイブニングドレスに身を包んだ年増の女が、二人の男を囲んでいた。
そのドレスのスリットからは、黒い誘惑が悩ましく覗いていた。
隣には、ベージュのスーツを着た、白髪の目立つ髪の薄い小太りの中年の男が座っていた。
この小太りの男が、ドレスの女の胸をいきなり触った事による小さな騒ぎだった。
「ちょっと陽一さん・・・何とかして下さいな」
ドレスの女は、逃げるように向かい側の席に座り、グレーのスーツを着た若い男の腕を組んだ。
酔った席の上の事なので、冗談めいた雰囲気だった。
「何だよママ、若い男に逃げんのかよ〜・・・・・・。ほら陽一・・・今の内だぞ。お前もママのおっぱい触っておけよ」
「川端さんと違って、陽一さんはそんなお人じゃありません。それに・・・こんな年増に何か興味ありませんから・・・・・・」
「何だよ・・・陽一とは今日会ったばかりなのに、何でママに分かんだよ」
「見れば分かります。何年客商売やってると思ってるの?。まあ・・・少なくとも川端さんよりは、マシかと思いますよ」
「か〜・・・俺だけ邪魔者扱いかよ・・・おもしろくね〜な。そうだ陽一・・・せっかくだから、今日はママから面倒見てもらえよ?・・・たまには熟女も良いぞ〜・・・・ふふ・・・ここのママは上手いんだからよ!」
「ちょ・・・ちょっと、大きな声で変な事言わないで下さいな。他のお客様にも聞こえますわ・・・・・・。まさか・・・私が川端さんとなんて・・・・・・」
店内は、カウンター席に数名の客と、それを相手にする二人の店の若い女がいた。
二人の若い女は、それぞれがピンクと水色のイブニングドレスに身を包んでいた。
ドレスの女に腕を組まれた若い男の方は、二人の戯言に加わる事無く、顔を真っ赤にさせながら水割りだけが進んでいた。
「何言ってんだよ。さっきおっぱい触られただけで騒いでた癖に・・・誰がこんな話、信じんだよ」
「もう・・・川端さん、そうとう酔ってなさるわね。そろそろお帰りになられたら?・・・また奥さんに心配されますよ・・・・・・ふふ」
「ちっ・・・今度は女房かよ・・・おもしろくね〜な。ママは陽一に取られるし・・・俺は、邪魔者扱いされるし・・・結局、帰れってか?・・・・・。しょうがね〜な・・・だったらそろそろ帰ろうかな〜・・・・・・。そんじゃトイレ行ってくるから、その間に勘定頼むわ」
「は〜い・・・恭子ちゃ〜ん・・・川端さん達のお願いするわね」
小太りの男は、入口のドアの隣にあるトイレへと向かった。
「ふふ・・・川端さんにはあれが効果的なの・・・・・。本当に奥さんに弱いんだから・・・・・・」
小太りの男がトイレに入ると、ドレスの女は、若い男の腕を組んだまま話しかけていた。
「あら?・・・陽一さん、随分とお酒が進んでますわね?。もう一つお作りしましょうか?」
「い・・・いいえ・・・もう結構です。そろそろ僕も、帰り支度を始めないと部長に怒られます」
「あら残念・・・川端さんなんて先に帰らせればいいのに・・・・・・。ふふ・・・陽一さんは、相当お酒もお強いようだし・・・何だか一緒に居たら頼もしいわ〜。もしかして・・・夜の方は特にお強いのかしら?。だったら・・・是非お願いしたいわね」
ドレスの女は、誘うようにスリットをたくし上げると、脚を組んで黒い誘惑を露わにした。
それに対して若い男は、すぐに視線を外して、慌てるように残り少ない水割りを一気に飲んだ。
「ゲホッ!・・・ゲホツ!・・・・・・」
若い男は、慌てて飲んだ為に激しくむせていた。