第4話 陽一の告白-1
「私もまだ酔いが残ってるみたいだわ。ちょっと、おしゃべりが過ぎたみたい」
その微かに響く摩擦音を消すように、玲子が話しだした。
「でもね、こう見えても誰でも良いって分けじゃないの。私と過ごす時間を大事にしてくれる人・・・・・・『愛してる』なんて安っぽい言葉なんていらないわ。だから、その日限りもざらにあったわね。それでも、一夜限りの恋人でいられれば私は構わないの・・・・・・二人だけの最高の至福を迎えられたらね。でも、最近はそんな人と出会ってないから、これが無くなるのもいつになるのかしらね」
玲子は、綴ったコンドームを指先でつまんで、いたずらに鏡越しの陽一に見せつけた。
「それとも、この前の学生さんみたいに突然現れて、全部使い切っちゃうのかしらね。ふふ・・・・・本当に、お若い人ってお強いのよね、もしかして陽一さんもそうかしら?。」
玲子の言葉は、まるで陽一でも誘ってるようだった。
もう、タイミングを伺う余裕など無かった。
これを逃したら、いつ訪れるかも分からない誘いの言葉だった。
しかし、その言葉には、自分に対する期待感も煽っているようで躊躇もしていた。
その理由は、男として自信が無いと言うよりも、それ以前の問題だった。
それでも、若い学生を満足気に話す言葉にも、嫉妬心と言う当て馬をあてがわられたようで、陽一の躊躇する気持ちをいきり立たせていた。
陽一は、その問題を抱えながらも、意を決して玲子の方を振り向いた。
ママ・・・よういちさ・・・・・・
振り向きざまに発した陽一の言葉は、運悪く玲子と被ってしまった。
「あっ・・・ごめんなさい。陽一さんからどうぞ?」
「いや・・・ママからで構いません。僕のは、それほど・・・・・」
陽一の言葉は、改めて話すには分が悪かった。
「あらそう・・・私のもそれほど大したお話じゃないのよ。ただ、自分の事ばかりしゃべってたから、陽一さんの事もお聞きしたいなあと思ってね」
早くも陽一の抱えてた問題が、表沙汰になろうとしていた。
再び陽一は、鏡台の方に視線を戻すと、そのまま俯いて黙って固唾を飲んだ。
「ねえ・・・陽一さんは、お付き合いしてる彼女さんとかは居るの?。そのようなお話を、陽一さんのお口からお聞きした事がありませんから・・・・・・。」
玲子もまた、鏡越しに話し掛けていたが、陽一は俯いたままで視線を合わせようとはしなかった。
「今は居ませんよ」
「今は?・・・それじゃあ、いない歴はどれくらいになるのかしら?」
玲子の問いかけに、陽一は俯いたままで答えていた。
それだけ陽一に取っては酷な問いかけであり、まるで針のむしろだった。
もう、打ち明ける覚悟は出来ていた。
「実は、女性とは付き合った事が無いんです。もちろん抱いた事もありません」
「本当なの?。そんな風には見えないけど・・・・・・」
玲子は、鏡越しに陽一の姿を見まわしていた。
容姿に関しては、女を魅了するでも無かったが、玲子が思う通りに、それほど悪くも無かった。
薄い顔立ちの細身の中背で、どこでもよく見かけるような、真面目な若者と言う印象だった。
「本当なんです。僕は、女性に縁が無いと言うか、器用じゃ無いんです。こんな歳で、恥ずかしい話でしょう?」
陽一は、この言葉を残すと、俯いたままでしばらく沈黙していた。
それに対して玲子は、その陽一の寂しそうな背中を、ただ眺めているだけだった。