第2話 ピンクのダブルベッド-2
「そうだったんですか。僕はてっきり・・・・・・」
「てっきり?・・・・・・てっきりがどうかしたの?」
「あ・・・あの、てっきりママの家かと思ってたから」
陽一は、『てっきり』の意味合いを誤魔化したが、答えはみなぎる物にあった。
普段は、母親とも変わらぬ年齢の玲子に対しては、綺麗な年増のスナックのママとして接していたが、この時ばかりは初めて、一人の女として意識していた。
実際、陽一はみなぎった物を、玲子の中で迎える心構えを密かにしていた。
決して陽一が、玲子のような年齢の女に性的意識が芽生えるほどのアブノーマルな性癖があるわけでは無く、逆に玲子の方が陽一の様な若い男をも虜にする、魅力に溢れていた。
ただ、その願望を目覚めさせた玲子の行動が、全て偽りと知った陽一の心中は複雑だった。
「あっ、もうこんな時間・・・・・・ママ、そろそろ帰ります」
陽一は、その羞恥心から逃れるかのように、壁に掛かった時計を見た。
この時、時計の短い針は3時を指そうとしていた。
それを察した陽一が帰ろうとして、急いでベッドから出て、立ち上がった時だった。
「いたたた・・・・・」
急に頭に痛みが走りだすと、激しいおう吐にも見舞われて、その場で足元がよろめいた。
「駄目よ。もう少し休んでいかないと・・・・・・」
玲子もベッドから立ち上がると、身体を支えるように陽一の腕を組んだ。
そのまま陽一がベッドに座ると、玲子も隣に座った。
「すみません。何だか今日はママに迷惑ばかり掛けちゃって・・・・・」
「良いのよ、私は全然平気よ。だって、陽一さんはいつも私のお店をごひいきにして下さる、大事なお客様ですもの」
「でも、僕はただ部長のお供をしてるだけですから・・・・・・」
「何言ってるのよ。それだけでも、私にとっては大事なお客様・・・・・・むしろ陽一さんが居るから、川端さんのお相手が出来るようなものよ。だって、川端さんたらお店に来るたび私の事を口説くんだもの。だから、陽一さんが隣に居るだけで安心できるのよ。あっ!?・・・これは川端さんに絶対内緒よ」
この言葉に陽一は、玲子が自分に特別な感情を抱いてるように思えていた。
ただ、今までの経緯を考えると、どこか弄ばれてる様で疑わしくも感じていた。
それでも、自分の感情には嘘は付けず、玲子の自分に対する好意的な言葉に惹かれる思いもあった。
今の陽一は、玲子に対する性的な感情は無く、淡い気持ちだけが芽生えていた。
その気持ちを大事にしようと、これからの玲子との関係を平穏にするべく、無理にでも帰る事を決心した。
「それは大丈夫ですよ。部長とは、ほとんど仕事の会話しかないですから。それよりも、ママにそんなこと言われると、何だか嬉しい感じもします。もう少し、ママともお話をしたいと思ってましたけど、やっぱりこんな時間なんで帰ります」
「もう終電は行っちゃたわよ?」
「大丈夫です。タクシーでも呼びますから」
「そんな、お金がもったいないわよ。だったら、始発までもう少しだから泊って行きなさいよ。どうせ明日は日曜だからお休みでしょう?。私のお店もお休みだから構わないわよ」
「泊るって・・・寝るとこは、どうすれば?」
陽一は、手狭な店の作りを考えると、他に空き部屋などありえないと思い尋ねた。
「あら?、それって私のお店が狭いとでも言いたいのかしら?」
「いいえ、そんなつもりじゃ・・・・・・」
「ふふ・・・嘘おっしゃい、顔に書いてあるわよ。それよりも・・・・・・別に良いじゃない、このベッドで一緒に寝れば?。こんなに大きなベッドなのよ?」
先ほどまでの、思わせぶりな態度と違って、普段の気さくな玲子の言葉だった。
それ故に、真実味に溢れた言葉であり、陽一はただ困惑するしかなかった。