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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-9

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―――今から5年前、



―――富子と将軍義政が結婚してから1年半が経過していた。



この能舞台から猿楽の演舞が発する熱気が満ち満ちていた時、

将軍家に輿入れしたばかりの富子も夫・義政の傍らにあって観衆の中にあった時期だった。

この時富子20歳――――










――――この時期、
富子は輿入れしたばかりとはいえ、
夫の寵愛を夫の乳母にして側室・今参局に奪われ、 不遇の中にあった。

その為跡継ぎをつくる機会にも恵まれず、無論政治に関わることすらできない状況にあった。


夫・義政にしても、
政治に対する関心と熱意を失いつつあった時期にあり、
この時のような物見遊山や猿楽・田楽の鑑賞、宴会や和歌に日々のめり込む毎日だった。





この時義政の左側に富子が座し、
反対側には富子の宿敵・今参局が座を占めており、
彼らの周囲には将軍側近集や諸大名がずらりと並んでいる。



夫の寵愛も薄れ跡継ぎにすら恵まれない状況の富子にとって、

こうした場は大多数の視線や嘲笑を感じる苦痛の場以外の何物でもなかった。

また猿楽自体も富子にとっては“上流階級のたしなみ”以上のものではなかったため、

長時間鑑賞することに対して毎度のことながら、退屈な気分に晒されていたのである。



その時、



(あれは・・・・・・)



あまり猿楽に関心がない富子の瞳が拡大し、
いつも通りの退屈な演目かと思っていた彼女の意識が
先程舞台に上がったばかりの演者に向けられたのはこの時だった。




―――ポン・・・ポン・・・・ポン・・・・



―――ヨオッ・・・ハッ・・・・ヨオッ・・・ヨッ



囃子方が奏でる鼓や笛の音が辺りに響く中で舞台の中央で舞い踊るのは、

山伏の格好をする
“老人の面”を被った演者。


その面にそぐわぬ激しく軽やかな動きであり、
所作1つ1つに鋭い切れを感じさせる。




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