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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-8

「・・・・・ご無沙汰しております、御台所様」



「・・・右京大夫殿もお1人で紅葉狩りですか?」




近づいてくる勝元に対して富子も軽く一礼すると、

あえて冗談めかした口調で問いかける。

勝元の方も肩をすくめるような仕草を見せ苦笑した。



「たまには1人で北山散策、というわけではないのですが・・・こちらの能舞台を近々壊すことになりましたので、ついつい足がこちらに向いてしまいました。

御台所様も・・・こちらの能舞台に?」



「ええ・・・・・・」




そう言うと、富子は視線を勝元から能舞台の方に移す。
つられるようにして勝元も感慨深げな眼差しのまま、富子から能舞台へと動かしていた。




辺りにヒラヒラと紅葉が舞い散る中、
赤絨毯のような地面の上に立つ1組の男女。


その情景ははたから見ても長年連れ添ってきた夫婦又は“恋人同士”のように見える。

だが彼等も、魑魅魍魎の蠢く中央政界においては敵対関係にある“政敵同士”なのだ。

将軍の弟と息子をそれぞれ担ごうとする者達。




だが今の北山の風景に溶け込んでしまっている2人の脳裏に浮かんでいるのは、
そうした醜い政界絵図などではなく、

はるか昔彼等が若かりし時代の時の記憶だった。



若い、といっても数年前の出来事。

そう、彼等が立っている北山における“青春”の記憶だった―――――











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