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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-10

(あの面は、確か・・・・“大悪尉”・・・)



“大悪尉(だいあくじょう)”とは老人を現す能面の一種で、

強く恐ろしい雰囲気の老人を表現している。


面の名前にある“悪”とは“強い”とか“存在の大きな”という意味。

赤みがかった面の表面に強い表情が刻まれ、老人を表現するために、

他の尉面独特の頭髪は無く、
鼻下や顎に白い植毛がある。
造形的には鬼人面に近いのが特徴である。







―――そしてその面を被り鋭い動きで舞い踊る演者こそ、


(細川、右京大夫、勝元・・・・・・)



心の中で演者の氏名と位階を区切って呟いていた。



―――ポン・・・ポン・・・・ポン・・・・



―――ヨオッ・・・ハッ・・・・ヨオッ・・・ヨッ


演目はいよいよ終盤を迎えようとしている。

大悪尉の面は、その面の由来に合った激しさを全身で表現しようとしているかのように、

素早い足捌きと扇を持った手の振り付け、

そして四周を睨み付けようとするかのように首を動かすという、終始緩みを感じなせなかった。





(・・・・・・・)



ここで富子は知らず知らずのうちに、舞そのものを食い入るように見つめている自分を発見していた。


疲れを感じさせない動きの中に、
富子は妥協を感じさせない演者本人の気質を実感じていた。


いや、この時から既に惹かれていたという表現の方が当たっていたのかもしれない――――――


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