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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-35

――― そして一連の対立の背後で暗躍していた女性こそ、

細川勝元の

“もう1人の政敵”

日野富子その人であった――――










―――パキィィン・・・・


生々しい音をたてて庭石に叩きつけられた翁の能面が、
次の瞬間には無数の破片となって辺りに飛び散り、
その原型はあとかたもなくこの世から消えた。






「・・・・・・・・」




1人庭先に佇み粉々になった能面の破片を見つめる富子。

自らの手から離れて庭石にぶつかる瞬間まで、
目を逸らせることなく凝視し続けていた。




―――スゥゥ・・・・



そんな富子の左の瞳から、一筋の涙が線を引くようにして頬を伝っていく。


顔は無表情のまま、富子は一言小さな声で呟いていた。



「・・・・さよなら、私の初恋・・・――――」




次の瞬間には、
富子はくるりと踵を返すと静かにその場を離れた。


―――ザッ、ザッ、ザッ・・・・・





白砂を踏みしめ踏みしめ 建物の方に向かって歩いていく富子の頬を、

冷たい一陣の風がかすめていった。




―――それはほろ苦い思い出に永劫決別し、


“初恋の相手”との血みどろの対決も辞さぬ、
過酷なる権力抗争の泥沼へ踏み込んだ彼女の心の中の変貌を象徴しているような風だった。







政治家・日野富子の、

真の意味での誕生の瞬間だった―――――



――― 完 ―――


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